「活字を読んで興奮できるのは、頭がいいってこと」(齊藤孝氏)
齋藤:ほう! 漢字に強いと日本語の理解が早いし、話もしやすいよ。中学生ぐらいになったら、親に「私に干渉しないで!」みたいにいうときがあるんだけど、「カンショウ」にも、鑑賞、感傷、勧奨…いろんな漢字があるんだよね。でも、漢字が思い浮かばないと話が通じない。漢字はどういうふうに覚えたの?
新津:家族が出版関係の仕事をしていて、私も自然と小さい頃から文字に興味をもっていたみたいで、2歳ごろにはひらがなが読めるようになっていたらしいです。
齋藤:へえ! なんと、なんと。
新津:駅前のポスターや看板を読んで、わからない文字があるとお母さんに聞いて、どんどん覚えたそうです。たとえば、工事現場で「危険です」って書いてある横に「危ないのでご注意ください」っていうポスターが貼ってあると、「お母さん、この字とこの字(「危険」と「危ない」の「危」)が一緒だね」って報告して。それを聞いて、お母さんがニコニコして「そうだね、おんなじ字だね」って。
齋藤:2歳で音読みと訓読みを発見してたのかあ…。
新津:あっ、さすがにまだその頃は音読みや訓読みっていうことはわからなかったですけど(笑い)、同じ形の文字を発見するのが楽しかったですし、お母さんも「すごいね、よく見つけたね」って言ってくれるので、うれしくて。もっとたくさん文字を覚えたい、もっといろんな言葉の意味を知りたいって思って、自然に覚えていきました。
齋藤:知的好奇心が自然に湧きあがるって、教養を身につけるうえで大事。とくに、子ども時代は、みんな“好奇心の芽”みたいなものがある。そういう、「もっと世の中を理解したい」っていう気持ちって、教養のもとなんだよ。
新津:私、初めてしゃべった言葉が、「もっと」だったらしいんです。
齋藤:「ママ」っていうよりも先に?
新津:はい。もっと食べたい、の「もっと」だったんですけど(笑い)。「もっと」って言うと、おいしいものが自分の前にくるから、それで覚えたみたいです。
齋藤:すごいね〜。人が生きていくのに一番必要な言葉は「もっと」だったんだね(笑い)。これからも「もっと」という気持ちをもって、教養のもとを成長させていってくださいね。
新津:はい! ありがとうございます!
【PROFILE】
◆新津ちせ/にいつ・ちせ。2010年、東京生まれ。劇団ひまわり所属。2014年、ミュージカル「ミス・サイゴン」タム役でデビュー。TV・CM・映画・舞台など幅広く活動している。2019年10月18日に、初主演映画『駅までの道をおしえて』(橋本直樹監督)が公開。子どもユニット「Foorin(フーリン)」の一員としても活躍しており、2019年「第70回NHK紅白歌合戦」にも初出場する。
◆齋藤 孝/さいとう・たかし。1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。主な著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『強くしなやかなこころを育てる! こども孫子の兵法』(日本図書センター)『「言葉にできる人」の話し方』(小学館新書)ほか多数。
●取材・文/ニイミユカ