まずは、研究者たちが目指す「若返り」とは、どのような現象なのかを知っておきたい。京都大学大学院生命科学研究科教授の石川冬木さんは、こう解説する。

「細胞組織、皮膚、脳、筋肉など、体を作るすべての『臓器』は加齢とともに機能が衰えていきます。その結果、生命の維持ができなくなることを『老化』といいます。『若返り』とは、加齢に伴う全身の臓器の機能低下のスピードがゆっくりとなって、命を落とすまでに至る時間が長くなること、つまり“寿命が長くなる”ことを指します」

 年齢を重ねるごとに細胞には有害な老廃物が蓄積される。そのため、臓器の働きは低下してしまうのだが、根本的な理由は遺伝子にあるという。順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学教授で日本抗加齢医学会理事長の堀江重郎さんはこう話す。

「人間は、卵子と精子が受精した瞬間から、一生、同じ遺伝子を持ち続けます。遺伝子は主にたんぱく質を作っているのですが、その作業を行う際に、紫外線や活性酸素によって絶えず傷がついて劣化していく宿命にある。本質的な『アンチエイジング』というのは、遺伝子が傷つくのを防ぐことなのです」

 現代の医学において、最も高度な若返りのための医療技術といわれるのが、遺伝子を操作する「ゲノム編集」、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が主導する「iPS細胞」をはじめとした「再生医療」だ。iPS細胞は、これまで不可能とされてきた分化(受精卵が分裂して特定の臓器の細胞となること)後の細胞を分化前に戻すことから、“究極の若返り”とも評価されている。

 まだ研究段階の技術だが、将来的にさまざまな治療で応用される日が実現すれば、それは「若返り」へ大きく躍進したと言っても大げさではないだろう。

※女性セブン2020年1月2・9日号

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