この杉並区のケースをきっかけに胸部X線検査の見落としが注目を集めたが、「これは医師のレベルが低かった、という問題ではありません」と指摘するのはNPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師だ。
「もともと胸部エックス線は結核を調べるために健康診断に導入された検査でした。しかし、副次的に“肺がんも見つけられる”ことや、機材が安価で導入しやすいこともあり、健康診断の項目に採用された経緯がある。
初期の肺がんは1~2センチ程度ですが、X線写真は解像度が低く、その大きさのがんを見つけにくい。しかも心臓や肋骨と重なった部分のがんや、血管や横隔膜の影などに隠れたがんは見つけられない可能性が高いのです」
日本医療機能評価機構の報告では、胸部X線検査における肺がんの偽陰性率(実際は陽性なのに「陰性」の検査結果が出た割合)は、最大で50%だったとのデータがある。制度上の問題点もある。医療事故に詳しい石黒麻里子弁護士が指摘する。
「本来、X線画像を診断するのは放射線専門医が望ましい。しかし法的には医師免許を持つ者なら誰でも診断できるので、医療機関によっては研修医のアルバイトがX線画像を任されることが多いのが現実です。専門的な知識や経験の乏しい医師が診断することで、がんを見落とすケースが少なくない」
肺がんを調べるうえでレントゲンしか選択肢がないならある程度のリスクは許容せざるを得ないだろうが、そうではない。
「より高精度で発見できる検査が採用されていないことが問題です。
小さかったり、ほかの臓器に隠れてしまっていたりするなどの理由でX線検査では見つけられないがんでも、『低線量CT』なら見つけることができます。自己負担で1万~2万円程度で受けることができます」(上医師)
※週刊ポスト2020年1月31日号