厳原町から福岡までは約138kmだが、島の北部の比田勝港から韓国の釜山までは最短距離で約50kmしかない。このため釜山と厳原を結ぶ国際航路が就航した1999年以降、韓国人旅行客は右肩上がりで増加した。時を同じくして韓国資本の進出が加速し、ホテルや民宿、釣り宿が次々と買収された。いまや厳原の歓楽地・川端通りや、比田勝港の国際ターミナル前には、韓国語の看板がズラリと並ぶ。
「好立地にあるホテルや飲食店は韓国資本が増えており、『川端通りはアリラン通りだ』と語る飲食店経営者もいます。そんな状況下、韓国人旅行客が激減して大きな打撃を被るのは韓国資本ですが、島の活気が失われたことも確か。『この機会に、国は国境離島の経済をどう活性化させるか考えてほしい』と多くの島民が訴えています」(宮本氏)
国境離島の振興は国にとって大きな課題だ。2017年4月には有人国境離島法が施行され、離島島民が利用する際の航空運賃や航路運賃が大幅に引き下げられたが、宮本氏は「対馬ではこの法律施行は逆効果でした」と指摘する。
「そもそもは離島の生活支援を通じて領海などの保全をめざす名目でしたが、対馬から福岡への飛行機代やジェットフォイル代が4割ほど安くなった結果、博多に出て買い物をする島民が増え、地元の経済活性化にはつながっていません。過疎化や高齢化が進むなか、島を離れて本土で暮らすために墓じまいする島民も現れ、ますます日本人住民が少なくなっています。そうした状況で韓国資本の不動産買収が進むことを懸念する島民が少なくありません」(宮本氏)
古事記や日本書紀にも登場する対馬は、古代より防衛の要衝として知られる。日清戦争後はロシアに対する前進根拠地として海軍の軍港が整備され、現在は陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊が配備される。2008年に海上自衛隊対馬防備隊本部に隣接する土地が韓国資本に買収され、リゾートホテルが建設された際には大きな問題となった。