産経の記事では世論に迎合して原典を改変している。だが、神が「不具の子」を海に捨てようが捨てまいが、俗人が口出しすべきことではないだろう。
朝日新聞は今年一月五日付で、伊勢神宮の初詣客が昨年より四万七千人増えたと報じ、「令和初」効果だとする。新帝が昨年十一月二十二日に伊勢神宮に参拝したことも大きいだろう。
しかし、天皇が伊勢神宮を参拝するようになったのは、明治以後のことである。明治より前は、天皇は伊勢神宮に参拝することはなかった。このことを私は学生時代に直木孝次郎の著作で知った。比較的新しい本では溝口睦子『アマテラスの誕生』(岩波新書、二〇〇九)に、こうある。
「天皇の伊勢神宮参拝は」「明治天皇の参拝が」「史上最初のものである」。「持統天皇や聖武天皇の伊勢行幸はあったが、その時も神宮への参拝はなかった」。
理由は、系統が違うからだ。
溝口は、日本神話の最高神に次の三つを考える。タカミムスヒ、アマテラス、オオクニヌシである。それぞれ由来が別系なのに最高神として扱われている。明治新政府の『人民告諭』は「天子様ハ天照皇大神宮サマノ御子孫様」とする。だが、溝口はアマテラスは「海路」に関わる神だと考える。
伊勢神宮参拝の記事でこれに触れたものを見ることはなかった。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。
※週刊ポスト2020年2月14日号