「何をしていいのかわからなかったのですが、とにかくなんとかしなきゃと必死でした。周囲の人に相談しても、誰も経験のないことで、答えが見つからない。なのに、私への投稿はものすごいスピードで増え続け、一時、インスタグラムが読み込み中のまま開かない状態にまでなりました。怖くて仕方がなかった。それでとりあえず、フェイスブックに自分の声明を投稿することにしたんです」(Aさん)
それが7時44分のこと。
《起きたら犯罪者扱いされててびっくりですが完全に事実と異なりますので無視してください》
こう投稿するが、これがさらに火に油を注ぐこととなった。《捕まれBBA(ババア)》《殺人未遂犯した後にのうのうと生きてインスタ更新できないよね。(中略)精神異常者》をはじめ、文字にすることもはばかられるような誹謗中傷が殺到。Aさんは、自分では対応しきれないと、朝9時に知人に相談。そこからさらに弁護士の小沢一仁さんを紹介してもらった。ここで、ネット炎上に詳しい小沢さんと巡り合えたのは幸運だったといえる。
【2019年8月17日(土) 午前9時~午前中】
「私はまず、Aさんに警察へ相談に行くこと、そしてデマを否定する声明文を出すことを提案しました。間違った情報が流れて騒ぎになった場合、なるべく早く、当事者からデマを否定する正式な文書を出した方がいいからです」(小沢さん)
とはいえ、Aさんも午前7時の段階でデマを否定する投稿を上げたが、余計に炎上した。早く弁明することは重要だが、タイミングと文章の内容が大切で、これらは専門家に任せた方がいいと小沢さんは注意を促す。
その後、Aさんは小沢さんの言う通り、警察の生活安全課に相談に行く。ところが…。
「警察に説明しても信じてもらえませんでした。“そんなことあり得ないでしょう”“暇な人が多いね~”“もう少しで犯人が逮捕されるから放っておきな”などと言われ、2~3時間は拘束されたにもかかわらず、まったく相手にしてもらえませんでした。相談に来たという記録だけ残すと約束してもらい、帰りました」(Aさん)
こういった件で、すぐに警察が動くことはまれだそうだが、後々、脅迫やストーカー行為など、別の刑事事件に発展することも考え、相談の履歴は残すべきだという。
【2019年8月17日(土) 午後~深夜】
Aさんが警察に行き、ネット環境から少し離れている間に、情勢は変わっていた。それまでは罵詈雑言一色だったのだが、朝7時台に出したAさんの声明などを受け、「人違いだったら大変ですよ」などといった冷静なツイートが増えたのだ。そして夕方には「デマだ」という声が大きくなっていった。
「Aさんがガラケー女であるという根拠が、サングラスや着ている服が似ているということだけ。あまりに理由がお粗末なことに気づいた人が増えていったんです」(小沢さん)