あおり運転一覧
【あおり運転】に関するニュースを集めたページです。

侮辱罪が厳罰化へ 親権者が未成年に代わって賠償責任を負うことも
ネット上の誹謗中傷で罪に問われることが多い「侮辱罪」は、現行の法定刑では「勾留(30日未満)か科料(1万円未満)」と軽いものだ。しかし2022年3月に決定した改正案によって、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が加えられ、公訴時効も1年から3年に延長になる。なぜ侮辱罪は厳罰化され、我々にどのような影響があるのか。SNS上の問題に詳しい成蹊大学客員教授でITジャーナリストの高橋暁子さんに聞いた。 * * *「Instagramに自撮り写真を載せたら、顔や体型についてコメントで悪口を言われた。『デブサイクすぎ。生きてる価値がない』とまで言われ、それからずっと落ち込んでいる」。 あるときから急にInstagramの更新頻度が極端に落ちた首都圏に住む女子大学生に、最近はあまりアップしていないねと聞くと、心ないコメントを繰り返されたことを教えてくれた。このようなことをSNS上で言われて傷つく人は多い。 一方、軽い気持ちで書き込んでしまったコメントが誹謗中傷に当たるのか、後で心配になって弁護士などに相談に訪れる人もいる。在宅ワークと通勤が半々くらいだという都内に住む30代の会社員男性は、みんなが面白がるかな、という程度の思いつきでTwitterにつけたリプライがきっかけで、相手が炎上していたことを気に病んでいた。「これは誹謗中傷に当たりますか」「今になって心配になってきました」──。 不安な気持ちを伝えたところ、自分と同じように相談にくる人が増えていると聞いてホッとしたものの、自分のコメントに問題がないわけではないということも分かって、いまも不安なままだ。 彼のように、自分のネット上での振る舞いを思い返して不安になる人は少なくない。実際、恋愛リアリティー番組『テラスハウス』出演中だったプロレスラー木村花さんがネット上で誹謗中傷を受けて亡くなった後、相談機関や弁護士に、加害者からの相談が多数寄せられたという。 相談を見ると、「軽い気持ちで投稿してしまった」「名誉毀損などのリスクが頭になく、興味本位で参加してしまった」など、軽い気持ちで書き込んでしまっていることがわかる。しかし、誹謗中傷された側は異なる。多くの人から攻撃的、否定的な書き込みをされた結果、亡くなってしまうなどの取り返しのつかないことも起きているのだ。 ネット上で「死ね」「消えろ」などと書き込んだことがあるというある男子中学生は、「書き込むとすっきりしたし、顔が見えないから悪いことをしている気がしなかった。同じような書き込みもたくさんあったから、つい自分もやってしまった」という。本人は穏やかで、一見、そのようなことを書き込みそうには見えない生徒だ。ネット上の誹謗中傷は罪に問われる インターネット上の書き込みは、侮辱罪や名誉毀損罪、脅迫罪などに問われる可能性がある。侮辱罪は事実を摘示せず公然と人の社会的評価を低下させる行為を処罰するもので、名誉毀損罪は事実の摘示によって公然と人の社会的評価を低下させる行為を処罰するという違いがある。「公然と」とは、不特定多数が認識できる状態のことで、インターネット上の書き込みも該当する。「事実を摘示」とは、具体的な事実を挙げているかであり、その事実が真実か否かは問わない。つまり「ブス」「キモい」などという場合は侮辱罪、「スーパーで万引をした」「上司と不倫している」などと具体的事実を挙げている場合は名誉毀損罪に当たるのだ。 なお、前述のような容姿や性格を罵倒するものの他、「犯行グループの一員」「会社をセクハラでクビになったらしい」などの真実ではない評判・社会的信用を落とす書き込み、「あの商品は体に有害な物質でできている」「食材が腐っているので腹痛を起こす」などの販売商品に対する悪質な口コミなどはすべて誹謗中傷となるので、注意してほしい。くどいようだが、●●さんが言っていたから本当だと思った、という言い分けは事実なのかの確認もとれていないし、免罪の理由にはならない。 また、前述の中学生の例のように、誹謗中傷の加害者が未成年だった場合でも、名誉毀損で訴えることは可能だ。未成年の場合も刑事、民事で訴えることができ、刑事の場合は少年法が適用され、民事の場合は損害賠償請求の責任を負う。名誉毀損罪の場合は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金とされる。未成年は支払い能力を持たないが、その場合、親権者が未成年者に代わって賠償責任を負うことになる。つまり、子どもが軽い気持ちで誹謗中傷の書き込みをした結果、保護者が代わって数十万円の損害賠償請求を受ける可能性があるというわけだ。侮辱罪厳罰化の理由は「抑止力」 侮辱罪厳罰化の背景には、木村花さんがネットの誹謗中傷によって亡くなったことが大きく影響している。 花さんはネット上で多くの誹謗中傷を受けたが、名誉毀損罪に問うことが難しく、刑事罰がもっとも軽い侮辱罪が適用された。花さんへの誹謗中傷で立件された2人は侮辱罪での刑事処分を受けたものの、科料9000円の略式命令にとどまった。「人を死に追いやっておいてわずか9000円なのか」と納得がいかない人が多い結果となったのだ。また、侮辱罪は公訴時効がわずか1年だったため、それ以外の立件はできなかった。 そこで、侮辱罪を厳罰化し、公訴時効も延びる改正が行われ、3年前までさかのぼって罪を問えるようになったというわけだ。この改定が抑止効果になり、ネット上の誹謗中傷が減ることが期待されている。リツイート、「いいね」で罪に問われる可能性も 侮辱罪厳罰化は、多くの人にとって他人事ではない話だ。多くの人が気軽にしてしまいがちな「リツイート」「シェア」「いいね」などにもリスクがあることをご存知だろうか。 2020年11月、ジャーナリストの伊藤詩織さんが漫画家のはすみとしこさんに対して損害賠償を求めた訴訟で、はすみさんは88万円の支払いを命じられた。Twitterに投稿されたイラストで名誉が毀損されたという理由だ。 この時、はすみさんのツイートをリツイートした2人に対しても、賠償命令が言い渡されている。リツイートは「元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為」とされ、罰則の対象とされたのだ。 さらに現在、伊藤さんを誹謗中傷する複数のツイートに「いいね」をしたとして、自民党の杉田水脈衆院議員に対して損害賠償を求める訴訟を起こしており、判決が注目されている。杉田議員の公式Twitterには当時11万人のフォロワーがおり、誹謗中傷ツイートに対して好感を表明する「いいね」をする行為が、伊藤さんの名誉感情侵害行為に当たるというわけだ。これは、「いいね」だけで罪に問われるかどうかに注目が集まる裁判となっている。 海外の事例だが、実際に「いいね」で罪に問われた例はある。2017年にスイスにおいて、Facebookで動物保護活動家を「人種差別主義者」「反ユダヤ主義者」などとする中傷投稿に対して「いいね」をした男性に対して、4000スイスフラン(約45万円)の罰金が科せられている。 ネット上には様々なデマが、多く出回り、広がっている。たとえば、2017年に起きた東名高速あおり運転事故は、これをきっかけにドライブレコーダーの売上が伸びるなど社会的影響が大きかったが、このときもSNSでデマが拡散された。その代表的なデマに、あおり運転をした容疑者の身元を特定したと称するものがあった。関連するデマのうち、「逮捕された容疑者の勤務先」と思わせる書き込みをネット上にしたとして福岡県警に名誉毀損罪で摘発され起訴されたに問われた5人には30万円の罰金刑が科され、うち一人は最高裁まで争ったが2021年9月に罰金30万円が確定している。 このようなデマを投稿した人はもちろん、デマを信じてリツイート、「いいね」しただけで、罪に問われる可能性があるというわけだ。真偽がわからない情報はリツイート、「いいね」などせず、情報元を確認するなどして情報の信頼性を確認したり、真偽がわからないものはシェアなどしないことが大切だ。情報開示請求もスピーディに 誹謗中傷対策というと手間ばかりかかりかえって疲労困憊させられると言われてきたが、色々と講じられ始めている。たとえば、インターネット上で匿名で誹謗中傷された場合は、その書き込みがされたSNSや掲示板などの運営会社に対して情報開示請求できるが、手続きに対して時間とコストがかかりすぎたため、実際は断念されることが多かった。というのも、SNS運営会社に情報開示請求をして分かるのは、書き込みがされたときの端末の接続情報まで。その接続情報をもとに、書き込みをした者が契約していると思われるプロバイダーや携帯電話会社に、被害者にとっては二度目の情報開示請求をしなければ相手の連絡先までたどり着けなかったからだ。 そこで、2021年4月にはプロバイダー責任制限法を改正。それまで2回必要だった手続きを簡潔化し、1回の手続きで投稿者の電話番号や住所などにたどり着ける情報開示を容易かつスピーディにする、新たな裁判手続きを創設するなどしている。 Yahoo!JAPANでも、Yahoo!ニュースに対してAIが判断した違反コメントが一定数に達すると、その記事のコメント欄全体を非表示とする機能を導入するなど、様々なところで誹謗中傷対策は進んでいる最中だ。 逆に、誹謗中傷被害を受けてしまった場合は、法務省の「インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内」ページを参考にするといいだろう。悩みや不安を聞いてほしい、書き込みを削除したいなど、希望に合わせた相談窓口がチャートで紹介されているので、諦めずに相談するようにしてほしい。
2022.03.14 16:00
NEWSポストセブン

くも膜下出血の末に6人死傷事故 60代現役タクシー運転手はどう見たか
事件や事故の報道につきものの被害者や加害者の顔写真がある。近影が見つからなかった場合、十年以上前の卒業アルバム写真が使われる事も珍しくない。最近では、家族の希望で被害者の実名や写真の報道を取りやめる例も出てきたが、申し入れされるまでは警察発表通りの実名と、入手できた顔写真が報じられる。俳人で著作家の日野百草氏が、千代田区で起きた6人死傷タクシー事故について現役タクシー運転手が抱く複雑な思いを聞いた。 * * *「驚きました。事故でも顔が出ちゃうなんてね」 都心の個人タクシー、60代の運転手さんが先日起きた悲しい事故の話をしてくれた。タクシー運転手の方々はコロナ禍にあっても個々人の日常を運ぶ。しかしその日常に潜む、すべての危険とも隣り合わせである。「事故を起こしちゃいけませんが、それでも人間ですからね、絶対はないです」 東京都千代田区九段南で9月11日、個人タクシーが男女5人をはねて死傷させてしまった。千代田区役所近くの内堀通り、現場を確認したが見通しの良い片側二車線、よほどの事情でもない限り歩道に乗り上げるような場所ではない。実際、ブレーキ痕はなかった。「人間いつ何があるかわかりませんね、くも膜下(で運転を制御)なんて無理ですよ」 運転手さんは事故のことも病名も知っていた。事故を起こした運転手の方はくも膜下出血だった。脳の主要血管はくも膜という薄い膜を通っている。その血管が裂けてくも膜下腔に広がり脳にダメージを与える。原因は高血圧、動脈硬化など挙げられるが脳動脈瘤そのものは誰にも出来得るものであり、いつのまにか出来ていつのまにか消えていたりもする。遺伝的要因もあるとされる。「あの人(事故当事者の運転手)だってまさか自分がなるとは思ってなかったでしょう」 くも膜下出血は約50%が死亡すると言われる。大出血なら一発で死ぬ。事故の運転手は病院に運ばれたが亡くなられた。こんな大事故となってしまうとは、自分が死ぬとは思っていなかっただろう。「私も毎日仕事で運転してるわけで、いつそうなるかわかりません。でも名前どころか顔まで晒されるのは怖いですね」 事故を起こした運転手の名前と顔写真は一部テレビ局などで公開された。名前はともかく顔まで出す必要があったのか。最近では事故の場合、遺族の申し入れで顔写真や取材を控えるケースが多いが、たとえ事故でも加害者となると警察のさじ加減だ。あおり運転や故意の暴走といった極悪な交通犯罪も今回のような不慮の事故も同じ「加害者」として晒される。「そりゃ人様の命を奪ってしまったのだし、プロだから仕方ない部分はありますが、顔出しは怖いですね。残った家族のことを考えると」私も加害者になるかもしれません 不運不慮の事故である。確かに運転手以外に5人もの死傷者を出してしまったことは悲しむべきことだが、あおり運転のあげく「はい、終わり」とバイクの大学生を轢き殺した犯人のように殺意が立証されたわけでも、どこぞの上級国民のように母子を轢き殺したあげく悪あがきを繰り返したわけでもない。運転手の顔と名前、晒し者にする必要があっただろうか。筆者は事故車の表示灯が「SOS」と表示されていたことについて聞いてみた。「踏んだんでしょうね、引くやつかな、どっちにしろ無意識かもしれませんね。だとすれば、プロとしてなんとかしようとしたんでしょうね」 タクシーは危険を知らせるため外部に「SOS」と表示できる仕組みになっている。レバーは運転席にあって、踏むタイプや引くタイプなどあるようだ。信号で長く停止後に後続車のクラクションで急発進、120m進んだところで街路樹に激突ということは、運転手は体調の変化に気づいていたのかもしれない。突然死の危険性が極めて高いくも膜下出血、急な脳疾患で意識もうろうだっただろう。悲しいかな、これが精一杯だったということか。「私だってそんな万が一、対処できるか自信ないです。タクシーに限った話じゃないですけど、運転中なんて危険だらけですよ。毎日走ってると嫌でもわかります」 確かにそうだ。今回はタクシー運転手の突発的な急病による事故だが、運転している限りいつ自分も加害者になるかわからない。筆者も44歳で急性心筋梗塞を経験している。幸い自宅で意識はあり、妻もいたため命は助かったが、これがたとえば心臓の冠状動脈5番閉塞(心筋梗塞でもっとも危険な場所、筆者は3番閉塞)だったなら即死もあり得る。それが運転中なら今回と同様に大事故となっていたかもしれない。筆者も何度かお仕事をご一緒した声優の鶴ひろみさんも首都高を走行中に急性大動脈解離を発症したにもかかわらずハザードをつけて緊急停止、絶命した。「その女性すごいですね、私だってできるかどうか」 鶴さんは急性大動脈解離で急死するわずかな時間、これは大変なことになる、迷惑をかけてはいけないと判断したのだろう。ケレン味のない彼女らしい対処だった。今回事故が起きてしまったタクシー運転手の方もあと少し意識が続いたならばそうしただろう。つまり、こうした予期せぬ事故は大変悲しいが、遺族ならともかく社会が運転手を責めるのは間違っているし、名前どころか顔まで晒すことはないだろう。「私も加害者になるかもしれません。健康診断も受けていますが、それで今回のような事故を防げるかどうか」 先にも触れたが、未破裂脳動脈瘤は誰の脳にも存在する可能性がある。国立循環器病研究センターによれば全人口の3~5%の脳には脳動脈瘤という血管のコブができている可能性があるという。それが自然と消えるか、破裂するかはわからない。頭部MRIで発見できるとされているが、単なる健康診断(基本、タクシー運転手は年に2回)では、頭部MRIなんてまず受けない。人間ドックのオプション検査で脳ドックがあれば受けられるが、それでも絶対安心というわけではない。「事故の人、私と同い年くらいなんですよ。タクシー業界、とくに個タクは60代なんて普通です」 東京タクシーセンター(2020年12月発表)によれば、「特別区武三」と呼ばれる東京23区と武蔵野市および三鷹市の個人タクシー運転手の平均年齢は64.2歳。いっぽう、イメージに反して法人タクシー運転手の平均年齢は新卒採用や女性採用の強化で下がり続けている。しかし個人タクシー(事業者乗務証交付者)の平均年齢は上昇中だ。今回の事故を起こした運転手の方も、筆者とお話しいただいている運転手の方も一般的には高齢者だが、個人タクシーとしては平均的な年齢ということになる。「個人タクシーの中には定年がない人もいるんです。100歳だって仕事できます。私はだめですけどね」 個人タクシーは死ぬまでできる、と言われたのは昔の話。2002年2月以降に参入した個人タクシーは75歳までと定年が決められている。しかしそれ以前の運転手には定年がない(ただし条件あり)。2019年に神奈川県川崎市で会社員をはねてしまった運転手はなんと91歳! 運転手の方がおっしゃるとおり、「60代なんて普通」の業界だ。「やっぱり年取るとリスクは高くなりますからね。でも仕事しなくちゃ食べていけませんし、いまは年寄りも働かなきゃいけないですから」自動車技術がもっと進むといいと思う。安全装備に助けられることは多い 政府は一億総活躍社会などと年金額を減らし続けてきたが、ついには厚生年金分を削って国民年金(基礎年金)に割り当てるとした。いよいよ正社員の老後も安泰ではなくなった。一般国民の老後は「等しく下流」に押しやられようとしている。還暦過ぎたプロ経営者とやらが「45歳定年」と中高年の正社員はいらない趣旨の本音を吐いたが、それが経団連に受け入れられているということは、生まれながらの資産家という親ガチャ引き当て組か運良く一生遊べる大金を掴んだ者以外は死ぬまで働けということだ。筆者の既発表ルポ『「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った』や『炎天下にマスク姿で道路に立つ70代の2号警備員が抱える不安』は決して他人ごとではない。残念ながら大半の一般国民は、歳を重ねるほどにリスクばかりの年齢不相応な苦しい労働を強いられるだろう。それが一億総活躍社会という国の望みだ。「それでも個人タクシーは食えるだけマシだと思っています。できる限り安全に、気をつけるだけ気をつけて、あとは運ですね」 よりにもよって運転中にくも膜下出血なんて。今年1月にも脳卒中を起こした73歳の法人タクシー運転手が渋谷区笹塚で横断歩道に突っ込み6人が死傷した。このケースも事前の健康診断は異常なし。それはそうだ。義務付けられた健康診断とはいえ人間ドック、ましてや脳ドックほどの項目はない。タクシーに限らず、今後は職業ドライバーの健康と安全のために脳ドックまで義務付ける必要があるかもしれない。実際、一般社団法人健康マネジメント協会では職業ドライバーにも脳ドックを推奨している。「それもありがたいですけど、自動車技術がもっと進むといいと思いますよ。安全装備に助けられることって多いですから」 ヒューマンエラーは防ぎようがない。突然死を伴うような病気、まして寿命など誰しもわかりっこない。だからこその技術革新によるサポートが必要ということか。トヨタのジャパンタクシーなどはトヨタセーフティセンスという予防安全パッケージが備わっている。個人タクシーで昔から主流のクラウンなどの大型セダンや最近タクシーで多くなったプリウスにも備えつけられている(他社、他ブランドにも同様の技術はあるがタクシーのほとんどがトヨタ車なので割愛)。一般ユーザーでも「うちの車にもついてるよ」という人は多いだろう。「これにも(トヨタセーフティセンス)ついてます。大きな事故ならわかりませんが、日常の運転では助けられてますね。でも事故のクラウンにもついていたと聞いてますよ」 運転手さんのセダンにも備えつけられている。もちろんまだ技術的に絶対、ではない。「だからこそ、さらにアップデートしたらいいなと思います。天下のトヨタですから、やってくれるでしょう」 技術革新に期待だが、コストの問題で買い替えが進まず、法人タクシーを中心に予防安全パッケージのない旧型もいまだに多い。長引くコロナ禍、タクシー会社も経営は厳しい。「毎日仕事で乗ってる人なら、絶対事故なんか起こさない、なんて思わないです。病気もそうですが、もらい事故だってあるし、車もバイクも自転車もひどい運転の人がいます。歩行者だってとんでもない横断とかします。同業(のタクシー)でもひどいドライバーはいます。過信はしません」 自分が上手いと思っている、自分は大丈夫と思っているドライバーほどやっかいなものはない。日ごろの運転で、そんなことはない、事故は身近と多くの心あるプロドライバーは知っている。事故を起こしたタクシー運転手もそうだったに違いない。それでも災難は降り掛かってくる。まさかある日突然、運転中に自分が突然死するなんて! 筆者は以前『立川ホテル殺害事件に同業女性が慟哭「名前が出てしまうんですね」』でも言及したが、被害者はもちろん予期せぬ過失による加害者の名前、ましてや顔写真をテレビの全国放送で流す必要が、それを望む視聴者がどれほどいるのだろうか。群馬の女子高生死体遺棄事件でも当初、被害者の女子高生の名前や顔写真が公開されたが、生活のために風俗で働き殺された女性や異常な夫婦に騙されて殺された未成年の女子高生、そして今回の突然死による事故で加害者となってしまったタクシー運転手の名前や顔を日本中の晒し者にする必要があるのだろうか。 技術革新同様、社会も確実にアップデートしている。昭和のワイドショーのような「罪もない被害者や事故当事者の顔を見たがる」一般国民は減っているように思う。実際、今回もSNSを中心に実名顔写真公開に対して批難の声は多い。「タクシーに巻き込まれて亡くなられた被害者の方もいらっしゃるので言いづらいですが、あのような事故で実名顔写真はきついです」 業務中の突然死で亡くなられた交通事故加害者、本当に顔写真を晒す必要があったのだろうか。それは「知る権利」と呼べるものなのだろうか。【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。
2021.09.20 16:00
NEWSポストセブン

パッシングされてドアを蹴られ… あおり運転被害は通報した方がよいのか
運転を妨げるほか、接触や事故につながる可能性の高い行為をする「あおり運転」が話題になることも多い。許されるべきではないこの危険行為に遭遇した場合、どう対処したら良いのか──。実際の相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。【相談】 先日、運転をしていたら、後ろから来た車がパッシングをして追い抜いて行きました。その後、道をふさいで車を停止させていたので、仕方なく私も車を止めると、その人が車から降りてきました。そして、何かを怒鳴りながら私の方に詰め寄ってきて、ドアを蹴飛ばして戻って行きました。そのときの様子はドライブレコーダーに残っていますが、あおり運転の被害として警察に通報した方がよいのでしょうか。(39才・会社員)【回答】 昨年6月、道路交通法が改正され、妨害運転(あおり運転)に対する罰則が創設されました(運転妨害罪)。一昨年、あおり運転をした男性の言動の一部始終が動画でネット配信されて大きな話題になりましたが、以前から似たようなことはあったと思います。 道交法では「ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」と、運転者の安全運転義務が定められています。しかし、やや抽象的なうえ、違反の罰則も3月以下の懲役または5万円以下の罰金で軽微です。頻発する危険なあおり運転を取り締まるには不十分でした。 改正法は10の危険運転行為を妨害運転と定め、違反者を3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する、という厳しい内容になっています。しかし、これらの行為をほかの自動車の通行を妨害する目的で、妨害される自動車の道路上の交通に危険を生じさせるおそれのある方法でしたことが要件です。 その中には、「車間距離を保たない異常な接近」「必要がない急ブレーキ」「禁止されている急な進路変更」「左側からの追い越しや無理な追い越し」等の典型的なあおり運転のほか、「高速道路での最低速度に違反したノロノロ運転や駐停車」などがあります。また、灯火についても「ハイビームを継続するなど減光義務に違反する行為」も含まれます。 妨害運転であるというためには、あなたの車の通行を妨害する目的であったことが外見上明らかで、通行の危険を感じる程度であることが必要です。パッシングして追い抜く行為については、その追い抜き方が左側からの追い抜き、あるいは無理な追い抜きといえるものでなければ該当しません。停車して道をふさいでも、高速道路上でなければ妨害運転にはなりません。 しかし、車間距離を取って走行しているときに、突然割り込んで急ブレーキをかけられて追突しそうになったり、ハンドルを切れば別の車や人などにぶつかる危険もあったとすれば、妨害運転に該当する可能性があります。 刑事訴訟法では、公務員は職務に関して犯罪を疑ったときは告発する義務がありますが、それ以外は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定められています。警察に届け出る義務はありませんが、今後の事故が心配であれば、警察への情報提供は有益なことだと思います。【プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。※女性セブン2021年4月8日号
2021.04.03 15:00
マネーポストWEB

ネットの「誹謗中傷」と「批評」線引き、「枕営業」はアウト
「お前が早くいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早く消えてくれよ」──。毎日100件近くのこれら誹謗中傷コメントにさらされ続けたプロレスラーの木村花さんは、「死ね、気持ち悪い、消えろ、今までずっと私が1番私に思ってました。」という言葉を残し、22年の生涯を閉じた。 この事件を機に、「誹謗中傷はやめよう!」という風潮が高まったが、いままた、不倫騒動を起こしたお笑い芸人・渡部建(47才)へ誹謗中傷が集まっている。「だって、渡部は叩かれるべき悪いことをしたでしょ」という大義名分を掲げて…。彼らは忘れているのか、あるいは知らないのか──。相手が誰であろうと誹謗中傷することは犯罪であり、人を死に追い込む行為だ、ということを…。「早くなんとかしないと、死んでしまう人が出てくる。そう思っていた矢先に起こったのが木村花さんの事件でした」 そう語るのは、2019年の「茨城県・あおり運転殴打事件」の容疑者“ガラケー女”と間違えられ、誹謗中傷を受けた女性の弁護を続けているインテグラル法律事務所弁護士・小沢一仁さんだ。小沢さんのもとには誹謗中傷に苦しむ多くの相談者が訪れる。みな一様に「知らない人から悪口を言われて怖い」「知り合いが誹謗中傷をしているかもしれないと思うと誰も信用できない」「殺すと書かれ、怖くて外出できない」とおびえ、いまにも死にそうなほど傷ついているという。 誹謗中傷コメントを書く側は、「ムカついたから」「相手が悪いやつだから」などと安直な理由やゆがんだ正義感からの行動かもしれないが、木村さんの事件が改めて社会につきつけたものは、言葉の暴力が半ば野放しにされていていいのか、という問題提起ではないだろうか。◆批評との線引きは心情を傷つけるかどうか 人の社会的評価を低下させれば名誉権侵害にあたり、人のプライドを傷つければ名誉感情侵害(侮辱)に、住所や学校など公開したくないことを勝手に公にすることはプライバシー権侵害にあたる。「たとえば、『女優××は枕営業をしている』などという書き込みは誹謗中傷にあたり、刑事罰の名誉毀損罪に問われる可能性があります。民事でも法的責任が生ずることはいうまでもありません」 こう話すのは、タレント・春名風花、通称“春風ちゃん”の誹謗中傷訴訟を担当するサイバーアーツ法律事務所代表の田中一哉さんだ。『言論の自由』のもと、批評をしてもいいはずだと言う人もいるだろう。しかし、誹謗中傷と批評の間には線引きがあり、相手が誰であろうが、誹謗中傷は犯罪になる。では、その線引きとはどこにあるのか。「個人の意見や感想に過ぎない場合は、原則として法的措置の対象にはなりません。たとえば、店名や所在地を挙げて『あの店の料理はまずかった』と書き込んでも、それが自身の経験に基づく正直な感想である限り、法的責任を問われません。しかし、『あの店の料理は汚物のような味がした』といった表現は営業主の感情を傷つけます。このような書き込みは、社会通念上許される限度を超える侮辱に該当すると考えられ、営業主は投稿者に慰謝料を請求できます」(田中さん) つまり、意見・感想なら何を書き込んでもいいわけではなく、それがたとえ事実でも相手の心情を傷つけないよう表現に気を使うべきなのだ。 ネット上の誹謗中傷を訴えるための手続きには時間とお金がかかり、容易ではない。しかし、木村花さんの事件を受け、政府は発信者特定の制度改正を検討している。「改正されれば、被害者はいまよりも早く加害者を特定できるはずです」(田中さん) ネットの匿名性は今後ますますなくなっていく。匿名性を笠に着て、卑劣な言葉のナイフを投げてくる人間を私たちは許してはいけない。※女性セブン2020年7月16日号
2020.07.02 07:00
女性セブン

自転車の飲酒運転は法律で禁止 前科がつく可能性も
2008年6月の改正道交法の施行から早12年。自転車は軽車両である、という意識はどこまで浸透しているのか、疑問を感じることもしばしばだ。そこで、自転車の基本的ルールについて、2つのQ&Aでおさらいする。Q. お酒を飲んだとき、自転車に乗ってもいいの?A. だめ。反則金や免許の減点がある青切符ではなく、いきなり赤切符が切られて前科がつく可能性も! 自転車だったらお酒を飲んで運転してもお咎めなしと思っている人も少なくない。「自転車も飲酒運転が禁止されているので、お酒を飲んだら自転車は置いて帰ること。ただ、飲酒量が多い場合に押して帰るのは、途中で転倒リスクもあって危険です」(全日本交通安全協会・参与の長嶋良さん) 飲酒運転を禁止した道交法第65条に違反すると、車なら5年以下の懲役または100万円以下の罰金だが、自転車はどうか。自転車の飲酒運転に関する検挙数が全国でも突出して多い埼玉県警に、話を聞いた。「埼玉県は土地が平らで晴天率も高く、自転車保有台数も多いという背景もあり、令和元年は36万7651件の自転車指導警告カードを発行し、自転車の飲酒運転は76件(*令和元年の全国の自転車飲酒運転検挙数は102件)検挙しました。自転車の飲酒運転は青切符ではなく、赤切符の対象となっており、罰金刑や懲役刑で前科もつく可能性があります」Q. 自転車の危険行為に、ほかの車両を妨害する「あおり運転」が加わったって本当?A. 6月30日からあおり運転などの妨害運転が危険行為に追加。3年以内に2回以上繰り返すと、講習や罰金の対象に! 世間を騒がせた「あおり運転」が、6月2日に可決・成立した改正・道路交通法で妨害運転罪に規定され、著しい危険を生じさせると酒酔い運転と同様5年以下の懲役または100万円以下の罰金や、1回で即免許取り消しなど厳罰化された。 この改正を受け、自転車でも、ほかの車両の通行を妨害する目的で「逆走をして進路を塞ぐ」「幅寄せ」「進路変更」「不必要な急ブレーキ」「ベルをしつこく鳴らす」「車間距離不保持」「追い越し違反」の7つの行為を、いわゆる“あおり運転”として自転車運転者講習制度の対象となる危険行為の15番目に追加。 3年以内に2回違反した14才以上に安全講習(3時間・手数料5700円)の受講を義務化し、無視すると5万円の罰金が科されてきた。あおり運転の行為は6月30日から適用されるので、心しておこう。◆自転車運転者講習対象「危険行為」の登録件数(4)指定場所一時不停止等 2377件、(5)交差点安全進行義務違反等 1329件、(6)通行区分違反 418件、(7)制動装置(ブレーキ)不良自転車運転 395件、(8)歩道通行時の通行方法違反 367件、(9)通行禁止違反 86件、(10)酒酔い運転 86件、(11)交差点優先車妨害等 34件、(12)路側帯通行時の歩行者の通行妨害 12件、(13)歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反) 6件、(14)環状交差点安全進行義務違反等 3件令和元年中自転車運転者講習受講者数328人。本資料は令和2年6月8日までに入手したデータより警察庁作成。※女性セブン2020年7月9日号
2020.06.29 07:00
女性セブン

自転車事故、多いのは3~7月 梅雨時はもっとも危険
6月末から自転車でほかの車両を妨害する“あおり運転”が危険行為の15番目に追加された。道路交通法では「自転車は車道を走るのが原則」とはいえ、いまだ「車道が怖いから」と歩道を通る人は相変わらず多い。問題はそのときの気持ち。「通らせていただきます」とちゃんと思って、行動してますか? “乗ったら軽車両、降りたら歩行者”の自転車は、加害者にも被害者にもなり得る危険な乗り物なのだ。「自転車事故は6分32秒に1件起きており、年間でも3~7月に自転車事故が多く、梅雨は特に危険です」と言うのは、全日本交通安全協会・参与の長嶋良さん。「なかでも、交差点の出会い頭事故が自転車事故の約半数を占め、見通しの悪い交差点、一時停止場所、信号交差点は自転車にとっての鬼門なのです」(長嶋さん) 梅雨どきに自転車事故が多いのは、雨で路面が滑り、ブレーキの効きも見通しも悪くなるという、事故が起きやすい条件がそろっているから。 とはいえ、警察庁「令和元年中の交通事故の発生状況」によると、自転車事故の数は減少傾向にあるが、全体に占める割合は横ばい状態のまま。さらに、ここ10年で交通事故件数は3割減少したが、自転車対歩行者の事故件数に関しては3割増加しているのが実状だ。 全交通事故に比べて減少率が低いのは、自動車ほど啓蒙活動や安全対策が徹底しておらず、利用ハードルが低く、高齢層など自転車の高リスク利用者の増加など、複数の要因が背景にあるためと考えられる。 シェアサイクルやフードデリバリーの利用率も上昇しており、自転車がますます注目を浴びそうなご時世。 自転車活用推進研究会理事長の小林成基さんは、「コロナ禍の影響で、電車より自転車での通勤・通学を希望する人が増えています」と語る。 NPO法人自転車活用推進研究会のデータ(枻出版社バイシクルクラブ編集部調べ、速報値)によると、全国でコロナ後に自転車を通勤・通学で利用している人は約半数だという。東京での調査では、コロナ前=自転車37.6%、電車51.1%だったのが、コロナ後=自転車が54.3%で電車を逆転し、自転車が通勤・通学の足に最も選びたい交通手段になっている。※女性セブン2020年7月9日号
2020.06.25 16:00
女性セブン

現役清掃員が明かす多目的トイレのあまりに多目的な使われ方
新型コロナウイルスにより自粛生活を迫られ、通常の経済活動が難しくなってから「エッセンシャルワーカー」の重要性がクローズアップされた。直訳で必要不可欠な労働者、という意味のその呼び名は、安倍晋三首相も用い、電力や鉄道、ごみ収集などの職種を挙げながら感謝の言葉を述べている。仕事や人生がいまひとつうまくいかないと鬱屈する団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアを「しくじり世代」と名付けた俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、トイレ清掃というエッセンシャルワーカーとして働く47歳男性に聞いた、仕事から垣間見える利用者の姿についてレポートする。 * * *「トイレの中に監視カメラはつけられませんから、やりたい放題ですよ。多目的トイレの使われ方なんて普通の人はわからないだろうけど、そりゃ凄いもんです。よくもまあみんな思いつくもんだと思います」 新宿の商業施設で清掃業務につく原西徹さん(仮名・47歳)は怒るでもなく淡々と語ってくれた。原西さんは清掃会社の契約社員。他のパートの清掃員、主に高齢の女性たちとともに日々施設の環境美化に取り組んでいる。清掃中の原西さんに声をかけ、じゃあ終業後ということでお話しいただいている。通用口から駅まで歩きながらの取材となったが、同い年だったことと原西さんが好きなガンダム話で打ち解けることができた。「トイレは基本的に男女とも女性がやりますんで私は指示だけです。まだ契約(社員)ですけど現場の仕切りもやってます。仕事は慣れたら難しくもないし楽ですよ」 日常清掃は決まった作業の繰り返しだ。季節やイベントによって作業計画表が変わったり、人が辞めたりで作業量が増えたりもするが、正社員のように営業や人事、管理などの仕事はないのでいまのところ気楽だという。「清掃に限った話じゃないですけど人間関係が一番大変なんです。女性の職場ですからね。生意気な爺さんなんかすぐにハブられる。おばちゃんたちにかわいがってもらうのが秘訣です」 清掃は女性優位だ。男性は女子トイレの清掃はできないが、女性、とくに高齢の女性は問題ない。これにとやかく言う輩も多いが現実である。しかし多目的トイレに限れば男女兼用、原西さんも担当する。「一般トイレよりひどいですよ。一般トイレも大小はみ出してたり吐瀉物が飛び散ってたりしますけど、商業施設なんで駅のトイレほどじゃない。私は駅のトイレ清掃も経験ありますけど、あっちは汚物と格闘ですが、商業施設のトイレ、とくに多目的トイレは変な利用者との格闘です」 格闘とは面白い言い方だ。実際そうなのだろう。日々、誰もが自分の排泄物を無自覚に垂れ流す。そんな見知らぬ人々が汚すあらゆるものを綺麗にする。絶対になくてはならない尊い仕事である。ましてここは新宿、日本有数の繁華街であり歌舞伎町を含めて一筋縄ではいかない者たちのるつぼでなわけで、迷惑をかける連中は枚挙にいとまがないだろう。具体的にはどのような利用者なのか。「食事してるのはよくいますね。長居されるんで困ります」 いわゆる「便所飯」というやつか。大学で友だちが居なくていつも一人きりの学生がやっているのは聞いたことがあるが、新宿の多目的トイレではサラリーマン風が多いという。コンビニ弁当を持ち込んで食べているのは序の口で、いったいどうやって持ち込んだのかカップ焼きそばを食べたであろう四角い容器が落ちていたこともあったそうだ。いずれにせよ、どうしてトイレで食べるのか理解に苦しむ。「あと着替えが多いかな、脱いだ下着がそのまんまとか、だいたい汚れてるんですけどね」 漏らしたのだろう。これは緊急事態、多目的トイレの利用としては問題ないかもしれない。ただし汚した下着は持ち帰るべきだ。大の大人が大を漏らしてしまったわけで、動転する気持ちもわかるが。血まみれの下着の場合は女性で、マナーの悪さに男女の区別はない。「ノートパソコン持ち込むビジネスマンもいますよ。最近来ないけど、同じ男が定期的にノパソ持ち込んでました」◆多目的トイレには出入り確認のカメラがある 多目的トイレでSOHO気取りなのか何なのか。確かに一等地で便利そうだが迷惑な話だ。他にはないのか。やはり多目的トイレといえば ――。「あなた、例のお笑い芸人の件で聞いてるんでしょ」 どうやら見透かされてしまったようだ。それでも原西さんは「まあいいですよ、どこまで使えるかは知りませんけど」と話を続けてくれた。「めったにないけど、男女で入るとか、男同士で入るとかは実際にありましたね。あとからパートナーが入るとか」 行為に及んだかどうかはわからないが、まあ普通に考えれば多目的トイレに健常者がペアで入ることはないだろう。片方の具合が悪く吐きそう、とかはあるかもしれない。「いやいや、そんなのはすぐわかりますよ。具合が悪いとか、障害者の付き添いとかじゃないってね」 原西さんが現認することもあるが、だいたいは施設警備からの報告だという。「多目的トイレの入り口にはカメラがついてますから。誰が入ったか出たかはモニターで施設の人が監視してます。悪い人を捕まえるとかじゃなくて、ずっと使用中だと苦情が来るんです」 それはそうだろう。多目的トイレは障害者、高齢者や乳幼児を持つ親、人工肛門利用者(オストメイト)のためにある。1994年のハートビル法、2000年の交通バリアフリー法(東京都の条例では「福祉のまちづくり条例」)を経て、現在のバリアフリー設計の多目的トイレ(東京都では「だれでもトイレ」とも)が整備された。使う人の大半はやむにやまれぬ人々だ。健常者が使うのは構わないが、目的外利用は言語道断だろう。「でもちょっとの隙に二人で入られたり、見かけで判断するわけにもいかない。さっき話しましたけど男女だけじゃなくて男同士もいるし、一人でやってるのもいるわけで。場所柄そういうのが多いってのもありますけど、本当に困ります」 警備員も清掃員も声掛けはするそうだが、たしかに見かけだけで判断するわけにもいかないし、年齢で判断というわけにもいかない。「子どもの場合は事件になっちゃうかもしれないじゃないですか。親子連れだと思ったらとんでもないことになってたこともあります」 まさしく事案というやつだろう。多目的トイレは迷惑なだけでなく犯罪に絡むことも多い。今年の3月には幼い姉妹を多目的トイレに連れ込んで破廉恥な行為に及んだ86歳の男が逮捕されているし、つい先日(6月14日)にもマンションや多目的トイレで5歳の女の子にわいせつな行為をしたとしてベビーシッターの男が逮捕された。「でも見かけじゃわかりませんし、出入りはカメラで監視できてもトイレの中にカメラはありません。こっちが盗撮になっちゃいますから」◆利用者のモラルにお願いするしかない トイレの中にはカメラを設置できない。当たり前の話だが、都市伝説の類では多目的トイレの中に監視カメラがあるというネタもあるが、あくまでネタ。もちろんカメラなんかない。「それでも監視カメラがついてるぞ許せんって理不尽な苦情もあったり、なんかやましいことでもやってんのかなって思っちゃいます。まあカメラと思ってるならいい気分じゃないでしょうけど」 天井にある点滅している装置がよくカメラと間違われるが、あれは人がいるかいないかの感知センサー(人感センサー・動体センサーとも)だ。埋込型のセンサーはともかく、露出角型のセンサーは間違われやすく、原西さんの言う通り誤った苦情が出ることもある。 で、原西さんは実際の現場を見たことはあるのか。「私はないですけど、合体してる男女がいたってのは聞きましたね、ドアが勝手に開いちゃってね、夢中だったんですかね」 通常、多目的トイレは20分から30分くらいで自動的に開くように設定されている。もちろん障害者や妊婦などが利用するわけで、倒れていたり具合が悪くなっていたりすると大変なので、そういった事故を未然に防ぐためのものである。もちろん犯罪抑止、マナー違反防止の面もある。初期はこうした装置がなかったため、事故、犯罪はもちろん寝泊まりする者が跡を絶たなかったという事情もある。『幸せのちから』という映画でウィル・スミス演じる主人公が落ちぶれて息子とトイレで寝るシーンは印象的だったが、あれはフィクション。実際は迷惑極まりない行為である。「結局、利用者の方々のモラルってやつをお願いするしかないんです。ごく一部の人だけなんですけどね。こっちも警察は呼びたくないし」 警察を呼ぶと逆に面倒なことになる。死体でも転がっていれば別だが、調べだ聴取だで面倒な上騒動になりかねないわけで、なるべく呼びたくないのはわかる。原西さんはもちろん、日々こんな困った人の対応を迫られる方々に対して本当に頭が下がる。ただでさえコロナ禍で大変だったというのに。 こうして、お疲れのなか話をしてくれた原西さんとは大ガードのあたりで別れた。気さくで柔和な印象だった原西さん、詳しい身の上までは聞けなかったが、もうすぐ正社員になるかも知れないという。コロナもあって先々の安定が欲しくなったとのことで、私と同じ団塊ジュニア、それぞれ幸福のために格闘してきた同士がこうして新たな幸せを掴むというのはとても嬉しいし、私も励みになる。また原西さんのようなエッセンシャルワーカーこそ報われるべきだと思っている。 そんな原西さんをはじめとするエッセンシャルワーカーを困らせる変な連中 ―― 例の芸人含め勘弁して欲しいものだが、こうした事案でしかない悪質な連中はもちろん、多目的トイレを私的な個室のように使う輩は後をたたない。問題となったあおり運転やネット中傷と同様、もはや国民のモラルに期待するのは難しい時代なのかもしれない。悲しいかな、これもまた日本の現実である。●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本福祉大学卒。日本ペンクラブ会員。評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で第14回日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。
2020.06.21 16:00
NEWSポストセブン

「コロナ自警団」と高齢者クレーマーに共通した特徴とは
4月上旬、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、全国で緊急事態宣言が発令された。自粛要請が長引くに伴ってSNSで目立ってきたのが、「コロナ自警団」「自粛警察」と呼ばれる存在だ。ネットとトラブルに詳しいITジャーナリストの高橋暁子さんが、正義感が暴走する背景についてについて解説する。 * * *◆はびこるコロナ自警団、匿名の嫌がらせも「何で営業しているんだ。休業しろ!」 4月、居酒屋の入口の前に貼った張り紙にそんな落書きが見つかった。元々は、『感染拡大防止に努めながら時間短縮で営業します。店内消毒しています』という張り紙だった。店の経営者である50代男性は、「まさかうちの近所にこういうことを書く人がいるなんて。お客様にいるとは思いたくない」と肩を落とす。 男性は、この落書きで心が折れてしまったという。その後すぐに、完全休業にした。「居酒屋というだけで目の敵にされていることを感じる。今は、店舗を再開することが怖い」。 他にも、「ルールを守って営業しているのに、『自粛しろ、店を休め』という嫌がらせのメールをもらった」という飲食店もある。すべてに共通しているのは、匿名で非難批判し、自粛を促しているということだ。「コロナ自警団」、または「自粛警察」とは、自粛に従わない人や休業しない店舗などを責める風潮と、それを言葉や行動にあらわすことを呼ぶ言葉だ。彼らの言動によれば、「県外ナンバーの車がいた」「休業していない店がある」「外で遊んでいる写真をSNSに投稿していた」など、色々な理由で攻撃されるが、実はどれも悪いわけではない。県外ナンバーなだけで県外から遊びに来た人とは言えないし、休業対象店舗以外はルールを守れば営業してもいいし、人が少ない時間帯に外に出ることは悪いことではない。「外食写真をSNSに投稿している人がいる。自粛期間中なのに、店で食事したことを投稿してもいいのか」とSNSで怒りの投稿をしている人を見かけた。言うまでもなく、営業中の店舗で食事をすることは悪いことではないが、このように「自粛要請」と「禁止」を混同している人は少なくない。 攻撃の対象は、店舗だけにとどまらない。「自粛要請が出ているのに公園で子どもが遊んでいる。子どもがマスクをしないでうろうろしていいのか。通報しても対応してくれない」という怒りの投稿も見かけた。しかし密集を避けて公園で遊ぶことは悪いことではないし、マスクをしないだけでは通報対象とはならない。「なんで子どもが外で遊んでいるんだ! この、コロナバイキン!」と、知らないおばあさんから怒鳴りつけられたという子どもの話を聞いた。このような話は多く、「知らないおじさんやおばさんに叱られるからもう外に出たくない」と言っている小学生もいるほどだ。 公園の遊具に黄色いテープなどが巻かれて利用できないようになっている地域もあり、子どもの存在が許容されていないことを感じる。◆感染者の個人情報特定をする人たち 報道を受けての犯人探しも続いている。味覚・嗅覚に異常を感じながらGW中に山梨県の実家に帰省し、陽性と判明した後に高速バスで帰京した東京在住の20代女性に対するインターネット上の反応はかなり厳しいものだ。 自粛期間中の帰省、しかも県内の20代の男性に感染させた上、陽性がわかった後に帰京という条件が重なり、女性へのバッシングは広がってしまった。女性が誰なのかを特定したという情報はインターネット上にあふれ、女性の勤務先とされた会社がホームページで風評被害として否定することになった。昨年、あおり運転傷害事件で逮捕された人物の関係者だとネットで決めつけられた女性が、SNSで該当の発信をした人たちを相手に名誉毀損で訴えたことは記憶に新しい。それより前、神奈川県で2017年に起きた東名あおり運転事故では、2020年4月になって、被告の男の勤務先についてネット上に誤った情報を投稿した1人が起訴、5人が略式起訴され罰金刑がくだされている。新型コロナウイルスについても、同じ事が繰り返されているのだ。 ましてや今回は、行動に少々軽率な点こそ見られたが、女性はウイルスに感染しただけで、予期せぬ事故のようなものに遭っただけの不運な人だ。彼女の個人情報だとされるものが流布されるいわれはない。これに対しては、山梨県が重大な人権侵害ととらえ、ネット上にプライバシーを脅かす情報が流れていないか調べ、犯罪性があれば警察に情報提供し、弁護士と協力して人権救済を支援することを検討するとしている。 感染者が罪人のように扱われる例は、これだけではない。大学生が海外旅行に行って感染し、帰国後に卒業式や懇親会に参加していた例でも同様に批判が殺到し、やはり個人情報が特定され、さらされてしまった。感染後の行動が不注意であっても、それだけで他人の個人情報をさらし者にしたり、ネット上で誹謗中傷してもいいのだろうか。◆正義感や同調圧力による攻撃行動 新型コロナウイルスに関しても様々なネット炎上が起きているが、炎上とはネットユーザーの1%にも満たない人によって起きているという山口真一・国際大学GLOCOM准教授による調査結果がある。そして、炎上を起こしている人たちの多くは、無職で時間が余っている若者などではなく、年収が高めの既婚男性が多いと分析されている。 リアルで子どもを怒鳴りつけたり、役所へ苦情を入れたりしている人たちは、最近、増えてきていると話題の高齢者クレーマーと共通した特徴を持つ。高齢者クレーマーには定年退職した管理職が多いと言われているが、怒りの矛先を遊ぶ子どもたちへ向ける大人には中高年以上の年代が目立つし、自分の意見は無条件で受け入れられて当然だという態度も見せている。 もちろん、若者でも自警団に加わっている人もいるだろう。だが、ネットでもリアルでも、どうやらその主力は中高年以上の年代であるようだ。 彼らは、仕事でも経験と実績を積んで、社会的に認められた人たちだ。だから状況判断にも自信があるし、社会的な事柄への関心も高いという自負が強い。新型コロナウイルスについてもニュースやネットを利用して情報収集している。そのため「自分は正しい」という思いが確信に変わりやすい。そして、自分は正しいから、悪い人は攻撃してもいいととらえてしまう。正義感で行動しているから容赦がなく、たとえそれが法律に照らすとグレーなものでも、感染を拡大させないための正しい行動と信じて行動している人が少なくない。 そして、新型コロナウイルスへの怖れが人一倍、強い人たちであるとも言えるのではないか。このウイルスの特徴として、高齢になるほど劇症化しやすいという点がある。自分と年齢が近い有名人の訃報に接すると普通の葬式もあげられない伝染病への恐怖が大きくなり、過剰に「正義」を貫かねばという気持ちにさせることだろう。 だからといって、自警団として振る舞ってもよいという理屈にはならない。今はすべての人が何らかの我慢を強いられている状態だ。他人に対する許容量が極端に少なくなっている故に、少しでも「正義」に従わない人が許せず、他人を攻撃することで鬱憤を晴らしている面もあるだろう。 気がかりなのは、もともと実数としては少ないはずの自警団に加わる人たちが、ネット炎上のように世の中全体へ影響を及ぼしてしまうことだ。自粛なので正確には禁止ではないのだが、ネットとリアルと双方で好き放題に警告活動を繰り広げた結果、騒ぎを起こしたくないという同調圧力により、その勝手な正義のルールからはみ出している人や店などを、本当に許せなくなる風潮が生まれることだ。 感染の心配や収入減の不安の中、多く人は頑張っている。その甲斐あって徐々に感染者数も減少し、一部では休業が解除された地域もある。感染者は感染しただけであり、悪いのはウイルスだ。誰かを攻撃しても事態が好転するわけではない。感染の疑いをかけられるだけでも不利益をこうむる、孤立させられるような状態になっては、本当に感染の疑いがあっても申し出ないことを選択する人が増えてしまう。そうなると、感染拡大を抑えることが難しくなる。それでは、本来、求められていた自粛の目的から離れるばかりだ。あと少し、緊急事態宣言が終了するまで、みんなで協力して乗り切るべきではないだろうか。
2020.05.15 16:00
NEWSポストセブン

「自粛警察」が暴走 正義中毒に陥らないためにすべきこと
コロナ自粛の長期化により、営業する店舗に匿名で貼り紙をしたり、外出する人たちに過剰に自粛を求めたりする市民の行為がエスカレートしている。過去の震災時にも起きたこうした“不謹慎厨”がこれ以上広がらないためにはどうすればいいのか──。同志社大学政策学部教授の太田肇氏が持論を展開する。 * * * 新型コロナウイルスの蔓延により長引く自粛生活で、国民のイライラが募ってきた。それをぶつける先が、世間で「悪者」扱いされている人たちだ。 営業自粛に応じないパチンコ店の前で開店待ちをしている客に罵声を浴びせたり、詰め寄って写真を撮ったりする。ライブハウスや飲食店に脅迫めいた貼り紙をし、コロナ感染者が出た会社に嫌がらせの電話をかける。他府県ナンバーの車にあおり運転や投石をする。 それが相手の人権や営業権を侵害し、暴行罪や脅迫罪、名誉棄損などにつながる行為だという自覚はない。公園に子どもを連れて行っただけで警察に通報する人や、マスクをかけずに歩いていると絡んでくる人もいるそうだ。 力づくで自粛させ、要請に従わない者を取り締まろうとする「自粛警察」は、新型コロナウイルスがもたらしたもう一つの恐怖だといえるかもしれない。 ネットの世界にも他人を攻撃する投稿が蔓延している。SNSでは有名人の不適切な言動を匿名の第三者が増幅して伝え、バッシングする。それを見た多くの人たちがリツイートや「いいね」を押して拡散し、ネットを炎上させる。こうした現象は政府や自治体の自粛要請が始まってから明らかに増えている。 東日本大震災や熊本大地震、西日本豪雨の後でも、結婚パーティーを開く人、笑顔でスイーツを食べる写真をインスタグラムにアップする芸能人、新しいファッションをPRした企業などが「不謹慎狩り」のターゲットになった。 正義の名のもとに相手の落ち度や非協力な態度をとらえて一方的に叩くのは、学校や職場で起きるイジメの典型的なパターンである。 学校では校則を破る子や共同作業をサボる子が、職場では残業せずにサッサと帰る社員や、空気を読まない社員が周りから仲間外れにされたり、嫌がらせを受けたりする。それと同じことが、いっそう危険な形でいま各地に広がっているのである。◆日本文化、日本人の美徳に潜むリスク 人は自分の価値観や行動規準に合わないものを排除することによって心の安定を保とうとする。また共通の敵を見つけ、一緒に攻撃することで仲間どうしの結束を強めようとする。そこに「正義」という後ろ盾があり、「正しいことをしている」という思い込みがあれば良心の呵責はなく、他人の攻撃にブレーキがかからない。「正義中毒」と呼ばれるように、正義感の暴走は一種の病理現象である。 考えてみれば、それは日本文化、日本人の美徳とされているものと隣り合わせだということがわかる。文化や美徳のなかに、「正義中毒」に陥りやすい危険性が潜んでいるのである。 たとえば災害時でも秩序を守って行動し、礼儀正しく振る舞う日本人はしばしば海外からも賞賛されるが、それは一人ひとりの道徳心や矜恃によるものばかりでなく、多くの場合、背後で厳しい同調圧力が働いていることを見逃してはいけない。「私」より「公」を優先する道徳規範もそうである。一般に世間では「私憤」はいけないが「公憤」はよいとされる。しかし冒頭にあげたような人権侵害や営業妨害ともいえるような行為は、たいていが単純な「公憤」から出たものだ。少なくとも「公」の衣をまとっている。しかも、そこで掲げられる「公」や「正義」は反論を寄せつけないため、しばしば偏狭で、独善的なものになりやすい。 そもそも「公憤」に欠落しているのは当事者性である。実際に自粛違反を糾弾し「不謹慎狩り」をする人たちは、たいていが当事者とは無関係な第三者である。そのため擁護しているつもりの当事者にとって、むしろありがた迷惑ということがよくある。 たとえば震災後に興味半分で被災地を訪ずれる観光客がネット上で批判にさらされたが、経済的に疲弊した地元からは「興味半分であっても来てほしい」という声があがった。また「不謹慎」扱いされることを恐れて人々がタブー視するようになり、かえって差別や偏見が潜行していったケースもある。 考えようによれば、他人に無用な干渉をしない「私憤」のほうがむしろ質(たち)がよく、それを表に出しやすい社会のほうが健全だともいえる。◆「正義」の仮面に気づかせる 心配なのは、これからさらに自粛が長引くとますます独善的な「正義」が暴走し、さまざまなトラブルが発生しないかということだ。また相互監視や密告によって、人びとが相互不信に陥る戦時中のような社会にならないかと危惧される。しかもそれは緊急時における一過性の現象にとどまらず、コロナ禍が過ぎ去ったあとの職場や社会にも後遺症として残るだろう。 では、私たちが「正義中毒」にかからないようにするにはどうすればよいのか。 まず自分の確信している「正義」が、実は絶対的なものではないと自覚することである。たとえばパチンコ店に通う客を非難する一方で、自分も感染リスクのある満員電車で通勤しているかもしれない。また他人の問題発言をネット上で罵倒する行為が、個人の人権侵害という、問題発言よりはるかに重大な「不正義」に当たる場合もある。 自分の行為が本当の正義ではないと気づけば、行動は自ずと変わるはずだ。 思い出してもらいたいことがある。かつて学校や幼稚園で教職員に無理な要求を突きつける保護者の存在が社会問題となり、「モンスターペアレンツ」と呼ばれるようになった。すると不思議なもので、無理な要求をする保護者が一気に減ったそうである。それまで自分の主張が正しいと信じ込んでいた人が、「モンスター」と呼ばれることで世間から冷たい目で見られていると気づき、行動変容につながったのである。「世間」に影響された行為は、「世間」によって正すことができるのだ。◆暴走にブレーキをかけるのは誰か 問題は、誰がその役割を果たすべきかである。 行政が強制的な命令や罰則ではなく、「お願い」や「自粛」という方法をとる以上、「自粛警察」や「正義中毒」のような存在が現れることは当然予想できたはずだ。さらに自粛に従わず営業を続けるパチンコ店の名前を公表したり、高速のパーキングエリアで職員が他府県から来た人の検温を実施したりするなど、行政がある意味で行き過ぎた行為を誘発するようなことを行ってきた。 またマスコミも、自粛要請にしたがわない人たちを執拗に追いかけて詰問するなど、彼らを「悪者」扱いしているケースが多々見られる。したがって「正義」の暴走にブレーキをかけるのも彼らの責任ではないだろうか。 いずれにしろ日本社会はその性質上、このようなリスクを常にはらんでいること、そして今回の場合、憎むべき敵はコロナだということを改めて確認しておく必要がある。
2020.05.08 07:00
NEWSポストセブン

【動画】あおり運転の宮崎容疑者 余罪が多すぎて裁判始まらず…
令和元年に話題となった常磐道あおり運転殴打事件の宮崎文夫容疑者。後続車を無理矢理停車させ運転手に暴力をふるうドライブレコーダー映像は日本中に衝撃を与えました。しかし、現在裁判にはブレーキがかかっている状態。 全国紙記者によると「あおり運転の余罪が多すぎて逮捕、起訴、再逮捕、起訴と繰り返しいまだに裁判も始まっていません。昨年7月に東名高速でもあおり運転をしていたとして4月8日には4度目の再逮捕となっている」とのことです。
2020.05.03 16:00
NEWSポストセブン

あおり運転男・宮崎容疑者 4度目再逮捕で裁判にブレーキ
令和元年のワイドショーを席巻した“常磐道あおり運転殴打事件”の宮崎文夫容疑者(44)。後続車を無理矢理停車させ、運転手をボコボコにするドライブレコーダー映像は、日本中に衝撃を与えた。宮崎容疑者が恫喝する車をガラケーで撮影していた帽子・サングラスの“ガラケー女”とともに、2019年の話題をかっさらった。 昨年8月に暴行と強要容疑で茨城県警に逮捕された宮崎容疑者だが、その後の話は聞こえてこない。「あおり運転の余罪が多すぎて、逮捕、起訴、再逮捕、起訴と繰り返しており、いまだに裁判も始まっていません。昨年7月に東名高速でもあおり運転をしていたとして、4月8日には4度目の再逮捕となっています。21日、実況見分に現われた宮崎容疑者は、だいぶやつれており、疲れている様子だった。警察の取り調べでは、容疑を認めているといいます」(全国紙記者) 事件後、宮崎容疑者が大阪市内に所有していた7階建ての自宅マンションは、税務署やカード会社など債権者に差し押さえられており、最終的に競売にかけられたという。「いまはほぼ無一文です。犯人隠匿容疑で一緒に逮捕された“ガラケー女”ことAさん(51)は、罰金30万円を納付して釈放されています。宮崎容疑者と元サヤに戻るつもりはないようです」(同前) 人生のハンドリングは、効いていない。※週刊ポスト2020年5月8・15日号
2020.04.30 16:00
週刊ポスト

週刊ポスト 2020年5月8・15日号目次
週刊ポスト 2020年5月8・15日号目次あなたの家族の場合申請すれば「もらえるお金」・夫婦で得する制度 支援給付金で妻の年金が「月5000円アップ」!・老親と得する制度 介護用の自宅リフォームで200万円控除・我が子と得する制度・離れて住む親子で得する制度・祖父母と孫で得する制度・兄弟で得する制度・単身者が得する制度特集◆病院・薬局に払っている「無駄なお金」総覧リスト56◆伝説のクイズ番組 歴代優勝者たちが選んだ「超難問25」◆【合併号 特別付録】おとなの「GWテレビ番組表」名作映画&ドラマの再放送から懐かしのスポーツ名場面、訪れた気になれる旅番組まで◆幻のモスクワ五輪代表 40年目の追想東京五輪2020年代表へのメッセージ◆金正恩「重篤」で“米朝開戦”へ!◆3か月で取れる「定年後に稼げる資格」15◆体に良い“ゴロゴロ” 悪い“ダラダラ”◆どうしても「会いたい!」やっぱり「会えない…」コロナ不倫の愛憎劇◆令和1年間のお騒がせ人物&事件どうなった?カルロス・ゴーン、あおり運転男、京アニメ、韓国タマネギ男、首里城焼失、武蔵小杉タワマン、即位パレードオープンカー、東出昌大、沢尻&唐田◆亡国宰相に告ぐ「言わずに死ねるか」◆「安倍コロナ総辞職」そして「小池の乱」再び!ワイド◆安倍昭恵「夫の貴族動画」に「いいね!」◆追悼 岡江久美子さん◆「一律10万円給付、もらいますか?」ヤクザ幹部たち◆石田純一「ラウンド感染」◆皇室“テレワーク公務”グラビア◆傑作パズル12問に挑戦!◆フジテレビ 女子アナ帝国の謎◆染谷有香 Honey Trap◆岩本和子、独白!◆東京 美食名店のテイクアウト7◆47都道府県お取り寄せおつまみ◆ネット美術館に行こう!◆塩地美澄 あなただから、脱ぎます…◆福井セリナ 濡れたカラダを抱きしめて◆素足のアイドルたち THE NUDE◆美しい写真集で巣ごもりライフに潤いを!連載・コラム◆中川淳一郎「ネットのバカ 現実のバカ」【小説】◆平岡陽明「道をたずねる」【コラム】◆二題噺リレーエッセイ 作家たちのAtoZ◆須藤靖貴「万事塞翁が競馬」 ◆広瀬和生「落語の目利き」◆堀井六郎「昭和歌謡といつまでも」◆秋本鉄次「パツキン命」◆戌井昭人「なにか落ちてる」◆春日太一「役者は言葉でできている」◆大竹聡「酒でも呑むか」◆鎌田實「ジタバタしない」◆綾小路きみまろ「夫婦のゲキジョー」◆高田文夫「笑刊ポスト」【ノンフィクション】◆井沢元彦「逆説の日本史」◆河崎秋子「羊飼い終了記念日」【コミック】◆やく・みつる「マナ板紳士録」◆とみさわ千夏「ラッキーな瞬間」【情報・娯楽】◆ポスト・ブック・レビュー◆医心伝身◆ポストパズル◆プレゼント◆法律相談◆大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方
スペシャル大前流「テレワーク仕事術」◆ビートたけし「21世紀毒談」◆連載「二度と撮れないニッポンの絶景」
2020.04.27 07:00
週刊ポスト

コロナにまつわるデマ発信 「正義感」こそが危うい側面も
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、様々なデマがネット上に広まっている。デマの拡散によって、甚大な被害も起きている。デマを発信することはないと安心してはいけない。拡散するだけでも罪に問われる可能性があるのだ。ネットトラブルに詳しいITジャーナリストの高橋暁子さんが、デマの実態と見抜き方について解説する。 * * *「26~27度のお湯が感染防止に効く」「花崗岩から出る紫外線は殺菌力があり感染防止になる」「納豆が感染防止に効果がある」 皆さんも、このような新型コロナウイルス関連のデマを見かけたことがあるだろう。中には、実際に騙されてしまったという方もいるかもしれない。 デマには、「◯◯が新型コロナウイルス感染予防に効く」「感染者は公式発表と違い◯◯人いる」「(本当はいないのに)感染者がいる」「感染者は◯◯さん」など断定的に伝えるパターンが多い。感染を恐れるあまりに、確認が不十分でも怪しい情報に飛びついてしまったり、疑心暗鬼になって誤った情報を広めてしまう例が多いのだ。 最近では、「4月1日にロックダウン(都市封鎖)する」というデマが拡散された。これらには「政府関係の確かな情報筋から情報が入った」「民放各社にも連絡が入った」など、もっともらしい情報源があるとされていた。3月末頃からTwitterやLINE上でチェーンメールのように広く出回ったため、スーパーには食料品の備蓄を買いに行く人が殺到するはめに。あまりの混乱に、30日には菅義偉官房長官が会見で否定する事態となった。 デマによって現実に被害も出ている。たとえば高松市のスーパーでは、関係者が感染したというデマが拡散されてしまった。「会長夫妻がダイヤモンド・プリンセス号を降りて香川県に戻ってきたところ感染が確認された」というデマが広がった結果、系列の7店のうち6店では前年比で1割売上が上がったのに対して、デマを流された店舗だけは10~15%ほど売上減となったのだ。◆世界でも広がるデマの拡散と被害 新型コロナウイルスに関するデマは日本だけで広がっているのではない。Twitter、Facebook、WhatsAppやWeChatなど様々なSNSを通じて、世界中で広がっている。 イランでは、「アルコールが感染予防に有効」というデマが広まり、密造酒を飲んだ2000人以上がメタノール中毒に陥り、なんと200人以上が死亡している。 インドでも、州保健相が「菜食主義者なら罹患しない」と主張して肉の消費が落ち込んだり、「牛の糞尿を飲んで許しを請えば感染しない」として糞尿を販売し健康被害を出した団体が逮捕されるなどしている。 新型コロナウイルス関連のデマが問題なのは、健康被害をもたらしたり、命を奪うこともある点だ。そのため、世界的に新型コロナウイルス関連のデマなどは厳罰化傾向にある。 台湾では、新型コロナウイルスに関する特別条例案が国会で可決されている。感染症に関するデマやフェイクニュースの拡散をして他人に損害を与えた場合、3年以下の懲役、または、これに300万元(約1000万円)以下の罰金を併科できるようになったのだ。◆デマの拡散は有罪になることも。必ず真贋の確認を デマの投稿・拡散は日本でも罪に問われる。2016年の熊本地震では、20歳の男がライオンが街を歩く写真付きで「熊本の動物園からライオンが逃げた」と投稿。写真は過去に海外で撮影されたもので、デマだった。だが、投稿を見てあわてた人たちから熊本市動植物園へ問い合わせなどの電話が100件以上もくる事態となり、男は偽計業務妨害罪で逮捕された。 2019年には、常磐自動車道で起きたあおり運転における殴打事件の際に、「加害者の車に同乗していた女」とされた女性が、デマを投稿・拡散した愛知県豊田市の市議を提訴。市議はFacebookに「早く逮捕されるよう拡散お願いします」と女性の写真を投稿していた。無実の人が犯人であるというデマを拡散した場合、名誉毀損罪などで損害賠償を求められることもあるのだ。 自分で投稿しなくても、拡散だけで責任に問われることもある。2019年9月、元大阪府知事の橋下徹氏がTwitterでデマをリツイートしたジャーナリストを訴えた。リツイートも名誉毀損に当たるとして判決は慰謝料の支払いを命じたが、ジャーナリスト側が控訴。現在も係争中だが、拡散という行為だけでも責任が問えるという判決が出たことは大きい。 ネット、とくにSNSでのデマ発信や拡散は、実に割に合わない行為だということが分かるだろう。ところが、今回の新型コロナウイルスに関しては、またしても、名誉毀損罪や偽計業務妨害罪に当たるようなデマも拡散されている。「コロナで品薄になる品予測を根拠付きでお伝えします。次は、トイレットペーパーとティッシュペーパーが品薄になります」。 2月末、このような投稿がトイレットペーパー不足の原因として拡散されたのを覚えている人も多いだろう。 この時、このTwitterユーザーはデマの発信元として個人情報が特定され、トレンドブログなどでさらしものとなった。ところが、実際はこのユーザーの投稿は拡散されておらず、これ以前にも同様のツイートをしているユーザーがいた。特定されたユーザーは、実際にはデマの発信元とは言いがたかった。確かにそのような投稿こそしていたが、他のユーザーも投稿しており、このユーザーだけが批判されるのは極端な反応で、似た内容のデマが他にも複数、発信されていた現実から目をそらしていただけ、とも言えるだろう。 なぜ、一人のユーザーだけに責任があるような奇妙なネット世論が出来上がってしまったのか。 現状、多くの人が休業や臨時休校などで何らかの我慢を強いられており、ストレスにさらされている。それ故、悪く見える人に対してうっぷんを晴らすように攻撃的に振る舞う人が多いのだ。多くの人は正義感から個人情報特定や非難・批判していると考えられるが、その正義感こそが危うい。様々な情報を、自分が考える正義に沿った内容になるようにアレンジするのが人間だからだ。 その正義感によって集め、アレンジした情報をSNSで発信するのは、自分の身を危険にさらす行為である。どこにも本名や本当の連絡先を記していないから問題ないと考えてはいけない。ネットの投稿からは、匿名でも発信元が明らかにできる。デマを投稿・拡散すると罪に問われたり、責任をとって賠償しなければならないリスクがあることは忘れてはならないだろう。 といっても、SNSで似たような意見ばかりのタイムラインを見つづけていると、条件反射のようにそれを拡散してしまいそうになる。情報を投稿・拡散する前に、前述のようなデマが出回りやすいことを意識しておこう。必ず情報元を確認し、情報の真贋を確認できない場合は拡散しないよう心がけたい。 なお、NPOファクトチェック・イニシアティブでは新型コロナウイルス特設サイトを設け、情報の真贋を検証しているので参考にしてほしい。
2020.04.05 07:00
NEWSポストセブン

トヨタの「スマートシティ構想」がスマートではない理由
企業がスマートシティの実証都市を立ち上げる──トヨタ自動車の「コネクティッド・シティ」プロジェクトが、2021年に着工される予定だ。はたしてこのプロジェクトにどのような意味があるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が読み解く。 * * * トヨタ自動車は、2021年初頭から静岡県裾野市で、あらゆるモノやサービスがつながるスマートシティの実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトを着工する。 今年初めにラスベガスで開催された世界最大の電子機器見本市「CES2020」で豊田章男社長が大々的に発表した構想で、同社のHPによると、2020年末に閉鎖予定の東富士工場の跡地を利用して、「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付けた街づくりを進める。「Woven City」とは「網の目のように道が織り込まれ合う街」の姿を意味している。 このプロジェクトの目的は、人々が実際に生活するリアルな環境の下、自動運転、MaaS(*)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI(人工知能)技術などを導入・検証し、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることだ。【*マース、Mobility as a Service。ICT(情報通信技術)を活用することにより、自家用車以外のすべての交通手段による移動を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念】「スピードが速い車両専用の道」「歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道」「歩行者専用の道」が網の目のようになった街をつくり、初期はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者ら2000名程度の住民が暮らすことを想定しているという。 だが、トヨタが何を考えているのか、私には理解不能だ。要は、次世代の自動車技術やサービスの新潮流であるCASE(*)の実験を行なうわけで、実験する場所がないよりはあったほうがよいだろうが、今やCASEにおいて技術的に未解決の問題は割と少なく、実際の人々の生活の中に入り込んだ時に安心できるかどうかがテーマになっている。【*ケース、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語】 たとえば自動運転の場合、すでに想定内の事態に対応できるレベルは超えている。しかし、アメリカではこれまでに死亡事故が3件(テスラ2件、ウーバー1件)発生している。グーグルの子会社ウェイモの自動運転車も衝突事故を2回起こしている。もちろん事故はないほうがよいに決まっているが、誤解を恐れずに言えば、想定外の事故が起きなかったら技術の進歩はない。 現実の道路では、ブレーキとアクセルの踏み間違い、信号無視、飲酒運転、逆走、後ろから極度に車間距離を詰めるあおり運転、わざと低速走行をして後続車に迷惑をかける逆あおり運転など、様々な出来事が起きる。しかし、そういう想定外の事態にどう対応すればよいのか、という実験は、モデル都市ではなく生臭い現実の都市でなければできない。エンジニアが考えうる想定外、つまり「プログラミングされた想定外」は、想定外ではないからだ。 同様の疑問は、シェアリングについても言える。 トヨタはアメリカなどで普及しているウーバーのような「相乗り」を想定しているのかもしれないが、「Woven City」に移住してくる人々はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者だから、そこでの生活は基本的に向こう三軒両隣が仲良しの“理想型”に近いものになると予想される。その場合、近所の人たちと1台の車に相乗りすることに、さほど抵抗はないだろう。 だが、現実の都市では隣人と不仲だったり、近所と付き合いがなかったりするし、他人との相乗り自体を拒否する人も少なくない。だから、ボストンのローガン国際空港などでの実証実験では、同じ方向に行く人を見つけるマッチングが意外と難しいことがわかっている。そうしたことも想定できなければ、リアルな環境とは言えない。 さらにMaaSで公共交通機関と自動運転を組み合わせると、メインの移動手段はバスや電車になるから、東京や大阪の都心部と同じように自家用車はどんどん不要になる。 MaaSやCASEが進展して次のフェーズに行けば、自動運転のバスやタクシーが指定した時間に自宅まで迎えにきて、最寄り駅や会社や学校などの目的地まで運んでくれる。そうなると、街を走っている自動車の台数は、おそらく現在の10分の1くらいになると思う。余資が山ほどあるトヨタが何をしても屋台骨はすぐには揺らがないだろうが、「Woven City」を建設するよりも、その未来に備えてリストラや事業転換を真剣に考えることのほうが豊田社長の優先順位ではないだろうか。●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。※週刊ポスト2020年3月13日号
2020.03.05 07:15
マネーポストWEB

リツイートによる誹謗中傷 「悪気なかった…」で済まされぬ影響力
昨年発生した「茨城県あおり運転殴打事件」の“ガラケー女”に間違われ、いわれのない誹謗中傷を受けた女性は、自身の名誉回復のため、デマをネットに書き込んだ人物を訴えた。とはいえ、自分に同様の事態が降り掛かったとき、「訴えるなんて自分にはできない」と考える人は少なくない。 しかし、インターネットの誹謗中傷は無差別で行われており、この女性同様、あなたが明日突然、標的にされるかもしれない。それと同時に、何気ないリツイートのつもりでも、それが誰かを傷つけ加害者になる可能性もあるのだ。実際、元大阪府知事・元大阪市長の橋下徹氏は自身にまつわるデマをリツイートしたジャーナリストを訴え、勝訴。ジャーナリストに33万円の支払いが命じられた。 なぜ近年、ネット上のトラブルが増えているのか。これは、スマートフォンの普及に伴い、SNSのユーザーが増えたことも一因としてある。「ネット上で問題を起こす人が増えたというわけではなく、SNSのユーザーが増えたため、ネット上のトラブルも増えたというわけです」 こう話すのは、ネット問題に詳しい情報リテラシー専門家の小木曽健さんだ。ネットには、普段人には見せない別の一面を、安易に露呈させてしまう特性がある。ネット上では投稿する相手と対面することがほとんどないうえ、投稿者は顔や本名を公表しないことが多い。「自分だとはバレないだろう」と高をくくることで、普段は口にしないような悪口も、気軽に発してしまうのだ。この気軽さが、誹謗中傷投稿を生む一因になっている。 「投稿する当人でさえも、自分の行為が人を傷つけているとわかっていないケースが多い。だから、誹謗中傷が増え続けているともいえます。こういった“無意識の中傷”の代表例が、リツイートです。これは、自分で発言をするわけではなく、誰かが発した興味深い投稿を、ほかの人にも拡散しようと、その投稿を転載することをさします」(小木曽さん・以下同) リツイートは、わずか2クリックでできるため、多くの人が気軽にやってしまう。しかしこのリツイートも、拡散する内容により、誹謗中傷行為にあたる場合があるのだ。 冒頭で紹介した「茨城県あおり運転殴打事件」から派生した誹謗中傷事件も、リツイートによる被害が大きかった。この事件では、一般女性Aさんが、容疑者の女性と身につけているものが似ていたという理由だけで、Aさんを犯人とするツイートが投稿された。その投稿を信じた多くの人が、犯人を懲らしめようとリツイートして拡散したため、わずか1日で、Aさんの顔と実名が全国にさらされた。 これを受け、Aさんはリツイートした人たちも含めて、法的措置に踏み切った。リツイートした人たちは、「容疑者の女はこいつだ」という情報を拡散させ、悦に入ろうとしたのだが、情報源が誤っていたため、過失により誹謗中傷行為に加担してしまったというわけだ。しかし、悪気がなかったからでは済まされないほどの影響力と、人を傷つける破壊力がリツイートにはあるのだ。 ※女性セブン2020年2月27日号
2020.02.18 16:00
マネーポストWEB
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