第三次羊肉ブームが到来しているという。外食チェーン「サイゼリヤ」では、羊肉を使った新メニューが開始早々、売れ過ぎにより販売一時休止となった。各国料理の歴史に詳しく、幼少期から羊肉好きだったという歴史作家の島崎晋氏がブームの背景を紐解く。
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コスパの良さで若者を中心に人気を集める外食チェーン「サイゼリヤ」。今年1月20日、そのサイゼリヤが昨年12月に始めた新メニュー「アロスティチーニ」が予想を上回る人気から原料不足に陥り、販売を一時休止したというニュースが流れた(現在は神奈川など一部地域で数量限定・期間限定で提供中)。
アロスティチーニはイタリア中部・アブルッツォ州の名物料理で、数センチ角にカットしたラム肉の串焼きのこと。現地では町中で日本の焼き鳥のように焼かれ、塩だけをかけて食されるが、サイゼリヤでは独自の混合スパイスを添えて、2串399円(税込み)で提供。これが若者を中心に爆発的な人気を呼んだのである。
現在、日本には第三次羊肉ブームが到来している。成長した羊のマトンではなく、仔羊のラム肉がメインである。
第一次ブームは、羊毛の国産化を企図した「緬羊百万頭計画」に付随して始まった。同計画は大正時代に始まり、国策として北海道を中心に何か所もの牧羊場が設けられた。羊毛の国産化が放棄されたのちは羊の食用への転換が促され、試行錯誤の末、もっとも美味しい食べ方が終戦後にジンギスカン料理の名で一般にも知られるようになった。
発祥の地については諸説あるが、調理法と食べ方はほぼ同じ。半球状の専用鍋で、もやしやタマネギ、ニンジンなどの野菜とともに焼いて食べるのだが、このとき欠かせないのが肉の臭みやクセを和らげてくれるリンゴ入りのタレ。あらかじめ肉をタレに漬けておく味付けと、焼いた後にタレを使う後付けの2パターンがあった。一時は鯨肉と並ぶ人気を誇ったが、海産物や他の食肉との競争に敗れ、牧場のある地域以外ではしだいに縁遠いものと化していった。
第二次ブームが到来したのは、米国産牛肉の輸入が停止されるなど狂牛病(BSE)問題で揺れるとともに、健康志向の高まった2004~2006年頃のこと。食べ方は第一次ブームのときと同じくジンギスカンがメインだったが、マトンよりも柔らかく臭みやクセが少ないラム肉が主役だった。BSE騒動が沈静化し安価な牛肉の輸入が再開されると、不慣れな店が劣化した羊肉を提供する例が多かったこともあり、「羊肉は臭くて硬い」という負のイメージを残してブームは去った。
そして現在の第三次ブームは5~6年前からじわじわと盛り上がってきたもの。低カロリーなうえに、加工技術、冷凍・冷蔵(チルド)技術の著しい進歩により、日本でも臭みがなく柔らかい羊肉が入手しやすくなったことが大きい。ジンギスカンやしゃぶしゃぶに限らず、羊のいろいろな部位を様々な調理法で提供する羊肉専門店が急増中である。