そう電話してきたのは年明け、東京が急に寒くなった日。支離滅裂だがゾッとした。
翌日も冷たい雨。また母からの着信を見て、息をのんだ。
「もしもし、私ね、管理人に監視されているの」と低い声。
「なぜそう思うの?」
「うーん…あれ? なんで電話したんだっけ? ちょっと待って」
母の声が遠ざかり、部屋をウロウロする音が。母の哀れに、私の心もざわついた。
「もしもし? Nちゃん? 用事ができたから切るわね」
戻ってきた母の声は、まだか細いままだった。
◆晴天の下で脳内の霧も吹き飛んだ!
その翌日は通院日。朝から雲ひとつなく晴れ上がった。私の中ではまだ、前日の母の不穏に凹む気持ちを引きずっていたが、ここ数年の経験から、カラリと晴れると母は元気になることも心得ていた。
迎えに行くと、やはり母の顔はスッキリ。服も自分で選んだが、季節相応で悪くない。なんと口紅までつけている。
「悪いわね、忙しいのに」と、いつもの愛想も復活していた。