かかりつけの認知症専門医は早速、母に質問した。
「お正月の旅行、どこへ行きましたか?」
もちろん覚えていない。母は困った顔で目が泳ぎ始めた。「えーっと東北かな?」と、私を見るので、「山梨だよ」と思わず小声で助け船を。
母は一転、にっこり笑って、「山梨ですよ」と、初めからわかっていた顔で胸を張った。昨日の不穏がウソのようにキレのある“取り繕い”。いつもの前向きな認知症の母だ。
帰り道、暖冬のせいか、住宅街の梅が花を咲かせ、真っ青な空に映えていた。気温も急上昇して、1月末にウキウキ楽しい気分になった。
「どこか出かけたい気分ね」
母もご機嫌だ。この穏やかな晴天が続くよう祈った。
※女性セブン2020年2月27日号