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2020.03.26 07:00  週刊ポスト

【山内昌之氏書評】絵がなくても北斎の凄さを想像させる筆力

『千夜一夜物語』のように、琉球、台湾、澎湖諸島、日本近海の島々を巡る源為朝の奇想天外な旅物語の挿絵は北斎ならではのものだ。代表作『富嶽三十六景』の一作品の解説である。「濃い青色の空にくっきりと浮き上がる富士山はレンガのような赤い色で、頂きの山際をトカゲのように雪の白が走る」。作品は「凱風快晴」だとすぐ分かる。

 また、「祖国を取り囲む畏怖すべき海への敬虔な脅威の念を、北斎はいわば波を神格化することで表現する。波は空へと癇癪を起こしたように上昇し、湾曲した内側は済んだ深い青色である」。絵は「神奈川沖浪裏」なのだ。「波頭は砕けて、雫となって飛び散り、まるで野獣の鉤爪のようだ」と続く。北斎の絵を知らない外国人でも、見たままの光景をありそうもない実相にデフォルメする近世日本の天才画家の凄さを想像できるだろう。ゴンクールの筆力は非凡というほかない。

※週刊ポスト2020年4月3日号

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