ギャンブルでのフォームとはなんぞや。「思い込みやいいかげんな概念を捨ててしまってね、あとに残った、どうしてもこれだけは捨てられないぞ、と思う大切なこと。」(色川武大『うらおもて人生録』)。そして色川御大は「113の法則」を教えてくれる。
1を賭けて負け。また同額で負け。今度は3を賭ける。勝って倍返しならばプラス1。2を賭けてもプラスにならず意味がない。
マーチンゲール法という古くから伝わるギャンブル理論を噛み砕いたものだが、オッズが大きくなる競馬のほうが実用価値が高そうだ。「11レースやって1勝でもいい。そこでマイナスにならないように賭ける」。そこでの勝ち負けは時の運。ギャンブルは一か八かである。
「113の法則」には決定的な問題がある。理論上は正しくとも、財布が底をつけば手の打ちようはないのだった。
さて、競馬を楽しんだ宵は必ず酒を呑む。結果の如何に拘わらず、ベストを尽くしたのだから。善戦健闘のご褒美はシャンパン。そうでなければ安いスパークリングワイン。
券果のメモを見ながら、ほぼ毎週、チリ産スパークリングを味わっている。十分いけます。ちょっと苦いけど。
●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年4月3日号