丸尾さんが主張するように、すべての高齢者が感染症対策に無頓着なわけではない。だが、テレビや新聞などで報じられた感染者の情報がSNSで繰り返し表示され、早朝からマスク販売に並んでいるのは年寄りばかり、といった写真が拡散される。そういった情報ばかり目にしていると、若者はウイルスの媒介者になりやすいので外出を控えるようにと念を押されたのに……と不自由を強いられたことへの恨みもわいてしまう。そして、この世の高齢者すべてが好き勝手をしているせいで自分の日常が脅かされているように感じてしまうらしい。
実は丸尾さん、大学の卒業式後に渋谷のクラブを貸切って「パーティ」を開催する予定だったが、キャンセルを余儀なくされていた。しかし、3月中に規模を縮小してではあるが、開催を再度決めたという。
「クラブの方には自粛要請があったようですが、近くのレストランを借り直してやります。お店的にも、客が減っている中で”助かる”そうです。高齢者が勝手なら、僕らだって多少の振る舞いは許されないと」(丸尾さん)
感染症対策を台無しにしかねない丸尾さんのプランは、決して正当化できる行為ではない。パーティ開催を引き受けた飲食店も、大きな問題があると言わざるを得ない。だが、丸尾さんに限らず逆ギレしてしまうほど高齢者への反発をおぼえ、ヘイトと言えるほどの感情をもってしまう若者たちが出現しているのも事実だ。新型コロナウイルスの脅威に晒された全世界で、老人ヘイトは拡がっている。民放キー局外報部記者の話。
「アメリカやヨーロッパの若者たちが、コロナウイルスを”老人排除剤”などといってネット上に書き込み茶化しています。海外でも、日本と同様に学校の一斉休校が相次ぎ、若者のフラストレーションが溜まっていて、当局の自粛要請を無視して若者たちはこっそり集まったりしているようです。ドイツでは、自粛反対派の若者が集まり屋外パーティが各地で行われているという話もあり、現地当局が危惧しています」(キー局外報部記者)
新型コロナウイルスをきっかけに生じた世代間のあつれきは、わが国だけの特殊な問題ではないようだ。日本では「休校なのになぜ子供が出歩いているのだ」といった内容の、高齢者からだと思われるクレームが役所や学校に向けて届けられることが増えている。海外においてもこうした報道を見聞きした高齢者から、市役所などに「クレーム」が寄せられているという。
世代間の対立はいつの時代にも存在してきた事象だ。最近のあり方がこれまでと少し異なるのは、SNSで自分が気に入った情報ばかり無意識に集めてしまっていることだろうか。その結果、若者による高齢者への感情が「ヘイト」と呼べるほどの憎悪に変わりつつある。この悪循環を断つには、「あなたの見ているネットにすべてがあるわけではない」という現実をひとつひとつ確認させる、地道な作業を重ねるしかなさそうだ。