かつてハンセン病は患者だけでなくその家族も社会から排斥され、差別されていた。治療法と感染症についての知識が広まったこと、差別の歴史を反省する気運が高まり日本政府も過去の施策を謝罪した今では、ハンセン病患者に対して差別と排斥を繰り返すことを許容する人はほとんどいないだろう。だが今、まだよく分からない感染症流行への不安からなのだろうか、新型コロナウイルス感染者に対して、一度は反省したはずの、感染症に対する間違った振る舞いと認識があらわになってきた。得体が知らない新しい感染症が身近にある怖ろしさと元感染者たちの戸惑いについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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新型コロナウイルスの日本国内の感染者が、ついに1万人を超えた。死者は236人(クルーズ船の乗客含む)にのぼり、未だ収束の目処が全く見えない状況だが、感染者の中には、治療や検査を経て無事に「陰性」となり、日常生活に復帰しようとしている人たちもいる。ただし、風邪や怪我から復帰するのとは訳が違う。元“感染者”たちの戸惑いはあまり知られていない。
「海外旅行から帰ってきて、3月中旬にPCR検査を受けコロナ感染が発覚しました」
西日本在住の学生・Aさん(20代)は、北欧から帰国した後、少し咳が出るくらいで体調に変化はなかったが、念の為最寄りの保健所に相談。その「念の為」に受けた検査で「陽性反応」が出たために、総合病院に入院したという。
「まさか自分がかかっているとは思いませんでした。よく言われているような発熱、咳などの症状もなかったですし……。感染症に対応している大きな病院に入院するよう言われ、期間は二週間程度と聞いていましたので……」(Aさん)
特に症状もなく、バイトもしておらず学校は休校、当初はゆっくり勉強や読書でもしよう、そんな軽い気持ちだったという。しかし、2日に一度ペースで行われていたPCR検査の結果は、入院から一週間を過ぎても「陽性」のまま。症状はないが、感染していることは確実で、急に重い症状が出るのではないかと疑った。ちょうどその頃、テレビではとあるニュースが話題になっていた。
「志村けんさんが新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなったと……。あんな有名人が死ぬくらいだから、僕も死んでもおかしくないと思いましたね。家族や友達に向けて、遺書っぽいメールを送ったりもしました。症状がないのにかかっている、というのが逆に怖かったんです」(Aさん)
結局、目安の二週間を超えても「陽性」反応が続き、いよいよ精神的に追い詰められていたが、4月に入って検査結果が「陰性」に。胸をなでおろしたが、次の検査結果はまた「陽性」。PCR検査の精度については諸説あるが、Aさんも翻弄されたのだ。