コロナ禍で人と接することが制限され、この便利な時代に老いも若きもみんなが人恋しさを感じて交流方法を模索している。そこで今回は、「手紙」に注目してみたい。
文章を書くのは苦手…と諦めることなかれ。一枚のはがきに大きく絵を描き、ひと言だけ添える絵手紙は、不思議と受け取る側の心に響き、濃密な交流ができるのだ。絵手紙の創始者、小池邦夫さんに手書きの魅力と絵手紙のコツを聞いた。
【教えてくれたのは…】
絵手紙作家・日本絵手紙協会名誉会長 小池邦夫さん●1941年愛媛県生まれ。東京学芸大学書道科に学び、絵手紙を創始。NHK教育テレビ『趣味悠々』で絵手紙講師なども務める。2005年山梨県忍野村に『小池邦夫絵手紙美術館』を開館。近著(共著)に『新版 はじめての絵手紙百科』(主婦の友社)。
◆素直に書いた手紙は会いに行くのと同じ
小池さんが絵手紙を始めたきっかけは、大学進学で四国・松山から単身、上京していた19才のときのこと。
「僕は小さい頃から人見知りで不器用。友達もできなくて寂しかった。同郷の“正岡くん”も上京していたけれど、なかなか会えないから手紙を書こうと思ったのです。彼なら僕の欠点をよく知っているから、ヘタでも格好つける必要がない。その日、見聞きしたこと、思ったことを、会って話すかのように書いた。はがきなら、いつでも勝手に会いに行けるでしょ?」
当時は電話がコミュニケーションの主流になりつつあり、手紙は時代遅れだったという。しかし、友人の正岡くんは小池さんから届くはがきの中から「この言葉は気持ちが真っすぐ出ていていい」「この文字は力強くて快い」というのを見つけては、わざわざ訪ねて来てほめたという。
「つい飾って書くと彼は絶対にほめない。そのうちヘタでも心のままに書くことがおもしろくなった。それが届いて少しはうれしい気持ちになってくれたかと思うと、幸せな気持ちになったのです」
小池さんのはがきに絵が加わったのは26才のとき。尊敬する洋画家の中川一政さんに会いに行ったことがきっかけだった。
「中川さんもまさに、“ただ整っているより、その人がよく出ているものがいい”という人でした。絵は才能がないと描けないと思っていた僕に、庭の落ち葉を1枚持ってきて“よく見て実物より大きく描きなさい”と指南してくれた。それも下描きはせず、墨をつけた筆でいきなり描けと。
筆は束ねられた2000本の毛が持つ人の気持ちを反映して動くから、自信がなければ自信のない線に、思い切って描けば形がつたなくても素直な気持ちが出ると。本当にその通りだったのです」
こうして、絵手紙のキャッチフレーズ「ヘタでいい、ヘタがいい」が生まれた。
「絵手紙は展覧会で大勢に見せるものではなく、気心の知れた好きな人、その人ひとりに宛てて気持ちを伝えるもの。会いたくて会いに行くのと同じです。だから、格好よく見せようと思わなくなると、俄然おもしろくなるのです」