国内

山尾志桜里氏の「緊急事態宣言批判」が間違っていない理由

ドイツの政治学者カール・シュミット(写真/AFLO)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため緊急事態宣言が出されたことにより、主権や基本的人権のあり方について言及されることも増えた。評論家の呉智英氏が、主権、基本的人権、戒厳令について改めて考察する。

 * * *
 最近、ドイツの政治学者カール・シュミットの有名な言葉を目にすることが多い。『政治神学』(未來社)の冒頭の一節だ。「主権者とは、例外状況にかんして決定をくだす者をいう」

 例外状況とは秩序の例外状況という意味であり、戦争、内乱、天変地異のことだ。こうした状況では、議会主義も法治主義も無力・無意味になり、むき出しの統治権力のみが有効になる。こういう事態を議会主義や法治主義の側がぎりぎりの際で想定したものが軍事法規や戒厳令である。

 シュミットへの言及が最近多いのは、コロナ禍対策として緊急事態宣言が発出されたからだ。これは広義の戒厳令の一種、あるいは戒厳令の隣接分野である。

 シュミットの政治思想は、このようにリアルと言えばリアル、危険と言えば危険な思想である。現にシュミットはナチスに利用され、戦後四半世紀ほど強く忌避されていた。未來社からシュミットの著作が何冊も刊行されたのはようやく一九七〇年前後のことである。私もその頃、同シリーズの訳者の一人、政治思想史家橋川文三を経由してシュミットを知った。

 シュミットが戦後期どれほど忌避されていたかは、民族学者(文化人類学者)石田英一郎が「『歴史のあけぼの』について」(石田英一郎全集第八巻)で語るエピソードによく現れている。マルクス主義系の歴史学者松島栄一は、石田がある座談会で民族学者ウィルヘルム・シュミットを引用したことを「ナチス民族主義」に加担していると非難した。カール・シュミットと間違えているのだ。シュミット姓というだけでナチス扱いされかねない時代であった。

関連記事

トピックス

日米通算200勝を達成したダルビッシュ有(時事通信フォト)
《ダルビッシュ日米通算200勝》日本ハム元監督・梨田昌孝氏が語る「唐揚げの衣を食べない」「左投げで130キロ」秘話、元コーチ・佐藤義則氏は「熱心な野球談義」を証言
NEWSポストセブン
ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」
女性セブン
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
生島ヒロシの次男・翔(写真左)が高橋一生にそっくりと話題に
《生島ヒロシは「“二生”だね」》次男・生島翔が高橋一生にそっくりと話題に 相撲観戦で間違われたことも、本人は直撃に「御結婚おめでとうございます!」 
NEWSポストセブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト