匿名だから大丈夫、とはならない

匿名だから大丈夫、とはならない

◆悪いとも思わずに傷つけるリプを飛ばす

 また政府は、憲法が保障する表現の自由に配慮しつつ、SNSを提供する企業に一定の責任を課す方法や、誹謗中傷した人への罰則を設けるなど法整備も含めて検討するとしている。匿名の発信者の特定を容易にする制度改正の議論を本格化させる方針を示した。この数年、発信者情報開示の項目への追加が検討されていた電話番号の開示も検討される見込みだ。

 SNSの場合、多くはユーザー登録時に携帯電話番号登録も必須となっているため、もし携帯電話番号の開示が決まれば投稿者の特定が早まるので、被害者の負担が大きく減る可能性がある。

 これは決して他人事ではない。俳優・演出家の土屋シオンさんは誹謗中傷がひどかった数名を特定したところ、ほとんどが未成年だったという。土屋さんは今後のことを考えて訴えずに直接話をしたそうだ。無視したほうがよいとも言われたらしいが、子供がやってしまったことに大人として向き合い、皆がやっているという逃げ口上を間違いだと伝えるために対話を試みたそうだ。だが、なかなか真意が伝わらない相手もいたようだ。

 実際に、若者のSNS利用についてヒアリングしたなかには「嫌いな芸能人にはリプ(リプライ)とかDMとかで『消えろ』とか『テレビ出るなブス』とか送る」という大学生がいた。「注目されている証拠だから嬉しいと思う」という感覚だそうだ。このような若者たちは、悪いとも思わずに相手を傷つける可能性がありそうだ。

 SNSで日々、起きているトラブルを見つづけていると、若者が軽い気持ちでこのように加害者になる例が目立つ。加害者になる前に、危ういことをしているのだと教えてくれる大人は少ない。皆がやっているからと繰り返せば、名誉毀損罪や侮辱罪に該当すれば、刑罰を受けたり、民事上の損害賠償を請求される可能性もある。回線の契約者名で請求されることが多いので、自宅に届く法律事務所や裁判所からの文書でいきなり、未成年の子供がSNSで問題を起こしてしまったと知るかもしれない。

 インターネットやSNSはとても便利なものだが、ときには深く傷つけられることもあり、両刃の剣となりがちだ。周囲の大人は子どもが他人を傷つけることがないよう、子ども自身が追い詰められることがないよう見守ってあげてほしい。

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