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ブロックチェーンで何が変わる? 仕組みや注目の活用法

ブロックチェーンで何が変わるのか?

 ITの利活用によって我々の暮らしが便利になり、安心・安全な生活ができているのは言うまでもない。ITが高度化していくにつれ、個々の場面ごとの便利さだけではなく、暮らし全体を良くしていこうという「全体最適」の考え方が広まりつつある。

 全体最適を実現する手段として注目されているのが「スマートシティ」や「トレーサビリティ」だ。街中を行き交う人々や交通機関のデータを記録、分析することでの居住性向上や、製造工場で製品が作られていく全ての過程をデータとして記録し、予期せぬ問題が起きたときの原因究明や製品の回収の早期実現をそれぞれ可能にする。これらの実現のための基幹技術が「ブロックチェーン」だ。ブロックチェーンによって私たちの生活はどう変わるのだろうか? 

◆スマートシティは「都市の人口集中」の課題解決の切り札

 ブロックチェーンについて説明する前に、まずはスマートシティについて解説していこう。スマートシティには明確な定義はないものの、国土交通省は『都市の抱える諸課題に対して、ITの新技術を活用しつつ、マネジメントが行われ、全体最適が図られる持続可能な都市または地区』と定義している。

 現代社会では都市への人口集中が課題となっている。人口集中度が上がると、交通渋滞や犯罪の増加、大気環境の悪化などによる居住環境の悪化が起こる。またエネルギー利用の効率化も考えなければならない。

 そんな課題を解決するために、都市を丸ごと一1つの大きなIT機器のように捉えたのがスマートシティだ。スマートシティでは人々の行動データや空気や気温のデータ、自動車や交通機関の移動データなどを記録、分析して、交通量を制御したり、犯罪発生を事前に予測したり、エネルギーの利用効率を高めたりできる。

 人口が集中する都市での居住性向上が期待できるというわけである。スマートシティの実例を見てみよう。

Woven City(静岡県裾野市/トヨタ自動車)

「Woven City」は、自動車製造の国内最大手トヨタ自動車が、旧東富士工場跡地に実証実験を目的に作っているスマートシティ。トヨタの従業員など2000名が実際に暮らしてみて自動運転などの最新技術を大規模に検証する。街のデザインが近未来的でITの利活用度が高く思える。

◆トレーサビリティは全ての業界に必要な「信頼」を得るための仕組み

 次はトレーサビリティについて。トレーサビリティとは日本語にすると「追跡可能性」。モノが流通する全ての業界で流通経路を管理するために必須のITシステムである。

 モノ作りでは様々な工程を通る。また工程ごとにモノの状態が変化していき、一般消費者の元に届くときに完成形の製品となる。もしその製品に問題が発生していたとしたら、どの工程で問題が発生したかを調べて原因を特定して、問題を解決した製品を届け直さなければならない。また食品など人体に影響するものは、どこで作られたものか。その場所は衛生管理がきちんと行われているか。きちんと調べておきたい。

 そんな課題を解決するのに必要なのが「トレーサビリティ」であり、トレーサビリティが高度化するほど、それを使っている企業の社会的な信頼度は向上し、製品を使う一般消費者の安全度も向上していく。

 トレーサビリティでは正しく情報を取得・記録することが最重要。加えて記録した情報を勝手に書き換えられてしまうことを防がなければならない。また工程によって製造を担当する企業が異なるので、企業間で共通のデータフォーマットを作ったりするなどの連携が必要になる。

トレーサビリティのイメージ(画像引用元:食品トレーサビリティパンフレット/農林水産省)

 モノの移動の状態を把握するために原材料の加工開始から商品の小売店流通までの状態を記録し、履歴を追えるようにしておくことがトレーサビリティの基本だ。

◆データ管理のソリューションとして期待できるブロックチェーン

 スマートシティやトレーサビリティに限らずITの利活用は、データが無いと始まらない。とりわけスマートシティやトレーサビリティでは大量のデータを記録して、必要な人に必要なだけデータを提示しなければならない。
 
 そこで、活用が期待されるのがブロックチェーンだ。既存のデータ管理ができるITソリューションでも実現可能なのだが、ブロックチェーンを利用することで費用を抑えつつ、データの改ざんを防ぐことができる。実際、スマートシティやトレーサビリティの分野では、ブロックチェーンの導入が急速に進んでいる。先に紹介したトヨタ自動車のスマートシティ「Woven City」でも、ブロックチェーンの積極的な活用が検討されている。

昨年DIMEトレンド大賞IT部門賞にも選ばれたブロックチェーンは、仮想通貨(暗号資産)に使われている技術のことを指すが、「ブロックチェーン=暗号資産」ではない。現在では医療、教育、流通、保険、住まい、著作権保護といった様々な分野への活用が見込まれている。

ブロックチェーンのイメージ(画像引用元:『マンガでわかるブロックチェーンのトリセツ』〈小学館〉より)

 そもそもブロックチェーンとは、機器が測定したり製造工程ごとに入力したりしたデータを皆で共有できる1つの大きな台帳のようなもの。複数のデータを1つのブロックにまとめて1本の長い鎖状に繋げたデータ構造をしているのでブロックチェーンと呼ばれている。ブロックチェーンだと、台帳を共有するのに皆でデータを持ちあうことで大規模なサーバーを不要にして費用を削減。データを書き込むときの合意形成プロセスを確立してデータの改ざん防止が期待できる。

 スマートシティやトレーサビリティを合理的に実現するために期待できる「ブロックチェーン」は、まさにITの高度化に伴って現れた大発明。様々な領域で我々の暮らしを便利にしてくれる可能性を秘めているITソリューションでもある。

 ブロックチェーンの基礎をマンガで学べる『マンガでわかるブロックチェーンのトリセツ』など初心者でも読みやすい入門書も発売されている。これまではエンジニアなど一部の人が知っておけば十分だったが、今後ビジネスの必須教養として知っておく必要がありそうだ。

取材・文/久我吉史

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