競技用義足の購入・メインテナンス費用は選手にとって大きな負担となる(小須田選手)
学校の体育でも義足で走れる環境を
実際、パラアスリートにはさまざまな立場の人がいる。1社と専属契約をして1000万円程度の報酬を得る“完全プロ”の選手もいれば、複数の企業とスポンサー契約をして活動している人もいる。また、ある程度の実績と知名度があれば、各地での講演活動で収入を得られることもあるという。
用具メーカーと契約をしていれば、用具の提供を受けることができ、さらに用具を使うことでスポンサー料が得られる選手もいる。ただ、スポンサーから潤沢な資金を得られるケースは一部のアスリートに限られる。そのため、働きながら競技に打ち込む選手が多く、前出の小須田選手も週5日、9時から14時まで所属のオープンハウスで勤務する契約だという。
義足で陸上競技の世界に挑戦するアスリートを描き話題となっているマンガ『新しい足で駆け抜けろ。』(みどりわたる作、『ビッグコミックスピリッツ』に連載中)の主人公は高校生だが、物語の中でも、最初はやはり競技用義足を義肢装具士から借りている。小中高生の場合、競技用義足を購入するとなれば、親の負担は大きなものになる。
一方で、アスリートをサポートする義肢装具士の世界もなかなか厳しい。「お金が目的なら義肢装具士を続けていくのは難しいのでは」と言うのは、株式会社OSPO オキノスポーツ義肢装具の代表を務める義肢装具士の沖野敦郎さんだ。
「日本では義足利用者が7万人、車椅子は高齢者も入れると100万人以上です。義足の需要が少ないので数多くつくられることはなく、安くならないのです。同じ理由で、義肢装具士は、コルセットやシューズの中敷きなどの装具を扱う人がほとんどで、義肢をつくる人は多くありません。装具のほうがお金になるからです。養成学校時代の私の同期は10人いましたが、義肢をつくり続けている(義肢装具士を続けている)のは3人だけですね」
沖野さんによると、海外では紀元前から義肢の歴史がある(なんと、エジプトでは義足を履いたミイラが見つかっているという)が、日本で義肢が登場したのは江戸末期からだという。ヨーロッパの国々とはそもそも義肢の歴史の厚みが違うため、日本ではまだまだそのあたりの補助が行き届いていないのが現状だ。