1席目は新作落語『妻の酒』。五代目古今亭今輔の演目で、有崎勉(柳家金語楼)作。毎晩酔っ払って帰宅して怒られる亭主が女房にも酒を呑ませて酒飲みの気持ちをわからせようとする噺で、こみちは独自の演出を加えていて会話にリアリティがあり、よく似合っている。
2席目は『船徳』の徳さんの船に乗る二人連れを嫁と姑に変えた改作で『船徳と嫁姑』この設定は秀逸だ。噺そのものの楽しさはまったく損なわず、そこに「嫁と姑」という関係ならではの可笑しさを加えることで、こみち独自のドタバタ劇として『船徳』がリフレッシュされている。これは決して邪道ではなく、女性落語家としての道を切り開くこみちならではの、「あるべき工夫」である。
有観客の落語会は当分の間「座席を間引いての開催」を強いられるだろう。当然、収益は激減する。それを補填するオンライン配信を伴うハイブリッドな落語会という形式が、今後定着していくのかもしれない。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2020年8月14・21日号