五輪開催のためには、これから1年間で世界に十分なワクチンが行き渡ることが必要です。一般的に人口の6割が免疫を持てば「終息」すると言われていますが、果たしてそれほどの量のワクチンが供給できるのか。

 オックスフォード大学が開発し、イギリスのアストラゼネカが製品化するワクチンは、9月から年間20億回分の供給が可能と発表されています。また、米国モデルナが2021年以降年間10億回分、米ジョンソンエンドジョンソン、英グラクソ・スミスクライン、米ファイザー、それに加え中国などでも2021年供給開始を目指して治験が始まっています。アストラゼネカは一回接種でいいのか、二回接種が必要か、いまだ発表していませんが、その他の会社のワクチンは二回接種が必要なようです。

 アストラゼネカが9月から供給開始したとして、来年の6月までに約15億回分。モデルナが2021年初めから供給できたとして半年で5億回分。その他の会社が同時期までに10億回分供給できると仮定してみましょう。アストラゼネカのワクチンが一回の接種で抗体産生が可能、その他が二回接種だとして、来年6月までに22億5000万人前後の人にワクチンが行き渡ることになります。

 しかし、現在の世界の人口は約200か国弱で約77億人。東京五輪参加予定は153か国・地域なので、五輪に関係する国の合計人口は60億人前後でしょう。上手くいったとしても22億5000万人程度分のワクチンしか用意できないので、ワクチン接種によりコロナの免疫を持つのは約3分の1です。つまり、ワクチンは間に合わないと考えるべきです。

 今まで私が参加した4大会(ソウル五輪は選手として参加していたが手違いで出場できず)の経験でいうと、五輪は平和で楽しい雰囲気の中で行われていました。大会関係者と選手、ボランティアと選手、観客と選手の間のつながりが、素晴らしい五輪を作るのです。競技種目や参加国によっては地方の市町村で事前合宿も計画されている。選手とホストタウンの住民との交流が、五輪への関心や応援の気持ちを作り出し、開催国としての盛り上がりができていくのです。

 仮に五輪を前に陽性者が出たとすれば当然このような交流は自粛となり、選手を隔離することになれば、五輪本来のあるべき姿が変わってしまいます。そんな大会を開催することに本当に意義があるのでしょうか。

 五輪開催の可否は、今、各国政府が苦労している経済活性化、中小の事業者を救うような対策とコロナ封じ込めをいかに両立させるか、といった問題とは違うのです。五輪が中止になった場合、スポンサー企業には大変申し訳ないことになりますが、スポンサー企業は中小事業者と違って体力がある。2021年は私にとっても五輪出場の最後のチャンスですが、無理な開催をして国民の健康と生命を危険にさらしたくはないと思います。

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