冒頭で触れた「確証バイアス」とは、自分の予想や考えに一致する情報を探して注目し、それを重視しやすい傾向のことを言う。多くのメディアは今まさにこのバイアスが働いている状態だ。例えば、アベノマスクを外して違うマスクを着け始めた頃からの冴えない表情や、腫れぼったくなっていく瞼に生気が抜けたようなうつろな目、官邸に入ってからエレベーターホールに消えるまでの歩き方やかかった時間、重い足取りやわずかに狭まっていた歩幅、コーナーを曲がる時に一瞬壁に手をついた様子など、首相の体調に異変が生じていると言うための事実を見つけ出し、細かく分析している。
健康不安説が流れれば、テレビを見ているこちらも、「首相は持病が悪化し体調が悪い」という先入観を持って安倍首相を見ることになる。確かに、顔色は青白く足取りは重そうで、歩く時はつま先が以前のように上がっていない。肩を落したまま歩き、胸も張らなくなった。記者達と視線を合わすことも少なくなり、広島や長崎での被爆地挨拶では声に張りがなく、声量は落ちていたように感じる。
メディアや国民がこのように感じ反応することは想定の範囲内だろうが、肝心の安倍政権からは、どう収拾するつもりなのか、人々の間に膨らんだ確証バイアスをどう操作し利用したかったのか見えてこない。受診する首相の姿を見せることが政権に何らかのメリットを与えたとも思えない。評価が厳しい安倍首相のコロナ対策だが、無理を押して首相は頑張っているとアピールしたかったのか。それとも「騒動」を装って実は…と何らかのサプライズで健康不安説を一蹴したいのか。
首相は8月28日に会見を行うとしている。ここで何を語るのか大いに注目されるが、安倍首相の健康不安という確証バイアスがこれだけ強く浸透した今、よほど丁寧に説明しないとこれを払拭すのは難しい。それとも健康不安説を認めて、あっさり退陣、というまさかの発表があるのだろうか。