芸能

小芝風花が怪演の『妖怪シェアハウス』、ただ一つ残念な点

小芝風花が体当たりで演技

 最近は深夜ドラマも軽視は禁物だ。実験的な秀作も多い。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系土曜午後11時15分)がハジケています。注目はまず、民放の連ドラ初主演の小芝風花さん。ヒロイン・目黒澪役を演じていますが、貧乏神になってげっそり目の下に黒いクマを作ったり、頭に2本のツノを生やすかと思えば、泣いたり笑ったり、髪の毛振り乱して怒ったり。もう、演技の幅がハンパない。いささかの躊躇もない。「どんな役でもどんと来い!と言える女優になりたい」と自ら語っていたように体当たりのハチャメチャさが爽快です。

 数年前、最初に「小芝風花」という名前を聞いた時は、響きがどこか古風で演歌的かつその昭和顔も手伝って、陰翳のようなものを感じました。しかし実は本名とか。しかも、女優になる前は、何とフィギュアスケートの選手でバリバリの体育会系というのだから二度びっくり。たしかに言われてみれば、筋肉の躍動感が他の女優とは全く違う。

 まだ23才の若手ですがここ数年の小芝さんの快進撃は目を見張るものがあります。『女子的生活』『トクサツガガガ』『歪んだ波紋』(共にNHK)と話題作に立て続けに登場。一作ずつ確実に怪談……ではなく階段を上ってきた印象です。

 さて今回のドラマの筋は、男に騙され捨てられた自己肯定感ゼロの目黒澪(小芝風花)が神社の境内で倒れていたところ、妖怪たちに助けられ一緒に暮らすことになる。この妖怪シェアハウスでの経験を通じて澪は人生どん底から少しずつ成長して変化を遂げていくという物語です。

 単なる「コメディタッチ」のドラマかと思いきや、それだけではないところがミソ。コメディを成り立たせるためには本気の作り込みや真剣さが大切である、ということを小芝さん他全スタッフがよく知っている。だから配役、小物、セットから衣装まで実に凝っていて遊び心に満ちています。

 ドラマの構造もそう。お岩さん=四谷伊和(松本まりか)、酒呑童子=酒井涼(毎熊克哉)、座敷童子=和良部詩子(池谷のぶえ)、ぬらりひょん=沼田飛世(大倉孝二)。妖怪たちは、普段は現代人になりすまして仕事を持って生きている、という設定。つまり、単に妖怪キャラが出てくる平板な物語を超えて、妖怪と現代人の二重構造になっています。ぬらりひょんは弁護士兼経営コンサルタント、酒呑童子はオークション会社勤務。ナースの仕事をしているお岩が、行き倒れの澪を介抱することになる。

 あるいは、ゲストで出てきた番長皿屋敷のお菊は、怪談の中では十枚揃いの皿が一枚足りなくなり死ぬしかなかったという可哀想な女性ですが、現世の仕事は「在庫管理やってます」とブラックジョーク。数が揃っているものをつい数えてしまう癖があるとのこと、思わず一本とられました。

 8月22日の第四怪(「回」を「怪」とあえて表示している)では、今最も注目されている妖怪「アマビエ」(片桐仁)がゲスト出演。おそらくアマビエをドラマの中に取り込んだトップランナーではないでしょうか。フットワークの軽やかさ、今・ここを反映するドラマ作りは躍動感に満ちています。

 演出の「ゲキメーション」も光っています。「劇画」と「アニメーション」を組み合わせ、劇中の昔語りを展開していく仕掛けは妙にアナログチックで視覚を刺激する。このシーンだけでも見物でしょう。

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