「台風19号」の被害があまりに甚大だった
治水ダムは国交省、発電ダムや利水ダムは経産省や農水省、厚労省の管轄で、メディアは“行政の縦割り”が原因と報じているが、元国交省河川局長で日本水フォーラム代表理事の竹村公太郎氏は「それほど単純な理由ではない」と指摘する。
「縦割りの弊害という面があるのは事実ですが、たとえば、発電ダムは電力会社が、農業用水用のダムは地元の農業者らが費用を出して建設したものです。国から補助金は出ていますが、基本的に事業者が自費でつくっているので、管轄が経産省や農水省だからといって、国が自由に運用を変えられるわけではありません」
国が独自に決められるわけではないうえに、そもそも治水ダムと発電ダム・利水ダムでは、運用方法も異なる。
治水ダムは豪雨による増水に備えて空(から)に近い状態にしておくのが基本だが、利水ダムは水不足に備えて、発電ダムは落差を利用して発電するので、どちらも水をたっぷり貯めておくのが基本で、まったく逆の運用の仕方になるという。
もし利水ダムや発電ダムで、豪雨を予測して増水分を受け止められるよう放流して空にしたのに、予測がはずれて雨が降らなかったりしたら、農業用水が不足したり、発電ができなくなったりする事態になる。
「これまでも、発電ダムや利水ダムで、台風が予想されるときに下流域の住民から『事前放流してダムを空にしてほしい』と要請されて、あくまで裁量の範囲内の“サービス”で対応することはあったようです。ただ、それを公にすると他のダムにも要請が広がっていきかねないので、非公式でやっていた。事業者側からすれば、治水に協力する義務はないし、治水に対応したために発電や利水に障害が出るのは避けたいというのが本音です。それを今回、説得できたのは、昨年の台風19号の被害があまりに甚大だったからでしょう」(竹村氏)