デモが暴力的になればトランプ氏の思うつぼ(AFP=時事)
次にトランプ氏が攻撃したのは、これまた自分たちに不利になりかねない「黒人の命は大切(BLM)」運動だった。全米で繰り返されているデモでは、一部で暴力事件や破壊活動、略奪などか起きている。これが「民主党の無政府主義者たち」の暴動だと非難したのである。民主党は社会主義政党であり、極端で暴力的な左翼がはびこっていて、そうした人たちと結びついたのがバイデン氏だという論法だ。
そこまで言われたら、バイデン氏は即刻記者会見して反論しなければならないはずだが、いまだに効果的な反撃はできていない。バイデン陣営の足かせになっているのが「バーニー・サンダースの亡霊」である。サンダース氏は民主党予備選でバイデン氏を最も苦しめたライバルだったが、自ら「自分は社会主義者である」と名乗り、その主張を多くの若い党員が支持した。バイデン氏はそうした勢力と妥協することで党をまとめようとしているから、少なくとも「社会主義者に担がれたバイデン」というトランプ氏の主張は当たらずとも遠からず、といったところなのだ。もちろん、それと暴動は直接関係ないが、共和党支持者はその主張に飛びついて結束した。
この戦略はこれからも効果を発揮すると思われる。トランプ陣営は、「民主党は社会主義政党だ」「左翼の若者は法と秩序を守らない」「無政府主義者までいる」と繰り返し声を張り上げるだろう。現実に一部で暴力事件が起き続ける限り、その主張は説得力を持つ。トランプ氏の居直りに民主党支持の若者たちがいきり立てば立つほど、トランプ氏に有利だ。
トランプ氏と共和党の戦略は見事である。よほどの戦略家がついているはずだ。筆者はある男を疑っているが、今のところ尻尾を出さない。わかりしだいお伝えしたい。