喜多八に代わって「シブラク」を支える左談次に対し、著者は5日間連続の独演会を提案。2017年9月、それは実現した。それ以降も左談次は「シブラク」の高座に上がり続けたが、もはや声を出すことができず、スケッチブックを片手にヒソヒソ声で小咄を披露するスタイル。それを「シブラク」の観客は愛した。

 左談次が67歳で亡くなったのは2018年3月19日。飄々とした芸風が大好きで、僕は左談次も随分追いかけた。その素敵な高座の音源は、ほとんど残っていない。喜多八のCDは出ているが、膨大な持ちネタのごく一部に過ぎない。著者は言う。

「記憶を語り継ぐことだけが、師匠たちを死なせない唯一の方法だ」

 まったく同感である。そして、それを最も素敵な形で実践してくれた著者に、心から感謝したい。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。

※週刊ポスト2020年9月18・25日号

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