注意しなければならないのは、こういう動きが今後のトレンドだと早合点して「戸建て」や「遠隔郊外型大規模」の資産価値を誤解してしまうことだ。
例えば、木造の戸建て住宅は築25年で建物の資産評価はゼロになる。駅から遠い郊外大規模マンションは築20年を過ぎると資産価値が急激に下がる。複合開発で開業した商業施設は、赤字になれば閉鎖されてしまう。そうでなくても物販店の未来は明るくない。
都心は狭く、遠隔郊外は広い。都心から流出した人々が多少郊外に流入しても、空き家や売れ残り住戸を埋め尽くしてなお不足するということにはならない。
さらに言えば、こういう住み替えのトレンドは決して住まい選びの主流にもならない。例えば子育て中のファミリーは、子どもが私立などへ通いにくい遠隔郊外への住み替えをためらうだろう。
また、コロナ禍が落ち着くとともに都心へ回帰する動きも一部には見られそうである。アミューズメントの少なさに飽きてしまうのだ。田舎暮らしをしてみたが不都合が多くて都会に戻ったというケースも少なくない。
20年後、30年後も考えるべきである。相続が発生した時、子どもはその住宅を相続したいと思うのか。例えば、郊外の駅から遠い大規模マンションに住みたいと思うか。売ったり貸したりできる物件ならいいのだが……。
日本は今後、人口も世帯数も減少する。東京の人口は都の予測よりも5年も早く増加が止まった。今は異次元金融緩和による不動産バブルで、東京のマンション価格は高止まりしているが、本来の需給に照らせば下落してもいいはずである。現に都心や湾岸のタワマンは空室が目立つようになってきた。
遠隔郊外や海辺への住み替えを否定するわけではない。伸び伸びとした暮らしを重視するのはひとつの選択肢だ。しかし、資産価値という視点も忘れるべきではない。