国内

「中国の反日感情」を警戒していた陸軍大将の言葉

渡辺錠太郎・陸軍大将。講演の少し前に撮影された(江崎家蔵)

 戦前・戦中・戦後を通じて活躍した国民的作曲家・古関裕而とその妻をモデルにしたNHKの朝ドラ『エール』。9月の放送再開後は戦争の時代に突入した日本を舞台に、当局から“軍歌”の作曲を依頼された主人公が奮闘する姿が描かれている。当時の日中戦争、太平洋戦争へと続く戦争の端緒を開いた事件といえば、昭和6(1931)年9月18日に勃発した満洲事変(柳条湖事件)だ。

 その“勃発前夜”の9月11日、陸軍航空本部長の渡辺錠太郎大将が東京で行なった講演会「現今の情勢に処する吾人(われわれ)の覚悟と準備」で、当時の日中関係について悲観的に見ていた渡辺は、満蒙問題(日露戦争後、日本が満洲=中国東北部や内蒙古に得た権益確保に関する諸問題)の解決に向けた懸念材料の一つとして、中国での「反日」「排日」教育を挙げている(*注)。

〈ことに最近、「打倒日本」という名前で支那(シナ)の排日教材を集めた本が出たそうでございます。それによりますと、彼ら[中国人]は小学校の子供に向かって「日本を打たなければならぬ。日本はわれわれから琉球[沖縄]を取った。台湾を取った。朝鮮も取った。満洲も取った。われわれはどこまでも結束して満蒙を取り返し、台湾、朝鮮、琉球までもわれわれの手に取り返さなければならぬ」ということを小さい子供に教えておるのでございます〉

 植民地統治においては、宗主国に対する現地住民の反発・抵抗は避けられない。そのため、併合された国や地域においていかに厳正かつ安定した統治を行ない、摩擦や衝突を防ぐかが極めて重要な課題となる。

 とりわけこの時期の渡辺は、排日・抗日の動きに対して敏感にならざるをえない事情があった。話題の評伝『渡辺錠太郎伝』著者の岩井秀一郎氏が解説する。

「渡辺大将は、この前年に台湾軍司令官として赴任した際、日本統治下で最大の抗日事件に遭遇してしまいます。『霧社(むしゃ)事件』(1930年)がそれですが、総督府の施政に不満を募らせた原住少数民族タイヤル族が武装蜂起し、現地の日本人134人が犠牲になりました。渡辺の赴任からわずか半年後のことで、渡辺はその後の任期の多くを暴動の鎮圧と事態の収拾に奔走することになったのです。この問題で渡辺は、植民地経営の難しさを身をもって知ったものと思われます」

【*注/渡辺の講演については、読みやすさを考慮して、旧漢字・旧かな遣いは現行のものに、また一部の漢字をひらがなに改めました。行換えのほか、句読点についても一部加除したりしています。[   ]は引用者注。出典は「渡邊大将講演(現今の情勢に処する吾人の覚悟と準備)」麻布連隊区将校団(防衛省防衛研究所所蔵資料)】

関連キーワード

関連記事

トピックス

氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
《大谷は誰が演じる?》水原一平事件ドラマ化構想で注目されるキャスティング「日本人俳優は受けない」事情
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
パリ五輪への出場意思を明言した大坂なおみ(時事通信フォト)
【パリ五輪出場に意欲】産休ブランクから復帰の大坂なおみ、米国での「有給育休制度の導入」を訴える活動で幼子を持つ親の希望に
週刊ポスト