アポ電の入電状況を毎日公表する警視庁犯罪抑止対策本部のツイッター。[警視庁提供](時事通信フォト)

アポ電の入電状況を毎日公表する警視庁犯罪抑止対策本部のツイッター。[警視庁提供](時事通信フォト)

 空き巣ではなく人と格闘してでも金品を奪いたいのであれば、大金でなければ意味が無い。また、銀行ではなく自宅にいま、確実にまとまった現金がなければ手間をかけた甲斐がない。そのため、入手した名簿をもとに家の固定電話に「アポ電」を入れ、今どのくらいの現金があるのかを聞き出しておくのが常だった。ところが、今回の点検強盗には、あらかじめ確認する行動が見当たらないのだ。そのため、従来の「アポ電」犯罪と同じものだとすることに違和感が拭えない。

 在阪テレビ局ディレクターが、最近のこの種の犯罪の変化について語る。

「関西の点検強盗で捕まった容疑者が、SNSを通じて仕事として強盗を請け負ったと供述しています。そこだけ聞くと、特殊詐欺の受け子や出し子、アポ電強盗に関与した人間と同じプロセスを経ているようにも見えますが、決定的に違うところがある。前者はまだ、人を騙したり、強盗に入る準備をしていました。点検強盗は、ターゲットを縛りあげる、テープで口をふさぐなど、強盗や傷害の指示を具体的に出している。一見計画性があるようで、素人がやれば場当たり的になりやすい……。かつてのものと比べ、かなり雑になっている印象です」(在阪テレビ局ディレクター)

 筆者はこれまで、特殊詐欺の受け子や出し子といった「末端」が、一般人がSNSなどを通じてリクルートされている実態を取材し、記事にした。「アポ電強盗」が発生した時には、人を騙す手間を省き、本来、詐欺師が嫌う人を傷つける、より強硬的な手段が講じられるかもしれない可能性を事前に示唆していた事情通のコメントを出した。それは「特殊詐欺」から詐欺の部分が取り払われ、金のあるところを手っ取り早く襲い、より弱い者が狙われるということを指していた。

 しかし、いま起きている点検強盗は、こちらの予想を上回る粗雑さと冷酷さをはらんでいる。もはやアポ電による確認もなく、金持ちをターゲットともせず、自分より力が弱い高齢者をまとめた名簿をもとに強奪していることが伺えるからだ。ただただ、老人などの弱者に照準が絞られている。実際、最近起きている事件の全てのターゲットが高齢者で、独居老人か、高齢の夫婦である。そして、実行される犯罪が粗雑になるほど、組織的に仕組まれているはずの全貌は見えづらくなっている。

「かつて『指示役』といえば、根元(首謀者)に近い存在でした」

 こう証言するのは、筆者の取材に協力してくれた特殊詐欺グループの元メンバー・X氏(40代)。

 もともと、受け子や出し子といった末端まで、詐欺事件などは立案した人間が「信頼を置ける」と思う、地元の友人や後輩といった身内や身近な人間をリクルートしたものだ。しかし、末端が検挙されることが多くなると、リーダー格の情報が捜査当局に知られやすくなる。そのため末端の者は斬り捨てやすいようSNSなどで集られるようになった。こうなると、切り捨て要員の質は下がり、思慮の浅い若者だけでなく女子中高生や老人などが、小銭欲しさに末端役を買って出た。

 かつての末端役はいま、どうしているのかと言えば、彼らは「指示役」に昇進したのである。

「今までのS(詐欺の隠語)といえば、指示役と実行役がいて、受け子や出し子といった実行役が逮捕されると、彼らと面識がある指示役までは警察にバレるけど、全体の金の管理をしたり絵図を描いたりする、その上はパクられ(逮捕され)ないって感じでした。ただ最近の実行役は質が悪く、パクられたら、なんでも全部喋る。だからもう実行役の信用はあきらめて、その上で止まるようにする。口の硬い実行役は指示役になり、かつての指示役は、指示役を操る中間管理職みたいなもの」(X氏)

 これは、今までの指揮系統に、もう一枚クッションを噛ませ、組織の複雑化を狙ったものと見られる。ややこしくすることで、たとえ事件の実行役が捕まり、芋づるで指示役までが捕まったとしても、犯罪グループの全貌をつかませない。

「当局が厳しい圧力をかけ続けた結果、逮捕されやすい、一番汚いことをやる末端の仕事が、より程度の低い人にアウトソージングされるようになった。犯行側にとっては、使い捨てできるメンツが増えたメリットもあるが、質がとにかく悪く、仕事の失敗率が格段に上がっているから、なんともいえないでしょう」(X氏)

 金持ちでなくでもいい、弱い奴がいたら奪い取るのみ。「点検強盗犯」という犯罪のありさまは、アポ電強盗よりさらに単純に、凶暴になった。もはや相手に取り入ろうとか、騙そうといった面倒なことをせず、いきなり殴りかかるのである。筆者が「……となるかもしれない」と予測するような記事を書いたことはあったが、正直に白状すると、まさか現実になることはないだろうと思っていた。「最悪の事態」としての妄想だった。そんな最悪の妄想が、現実となってしまった。

 状況は今も変化し続けている。これからさらにおぞましい悲劇が起きるのか、もう見当すらつかないというのが本音である。

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