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トランプ氏の帰還 壮大な演出に込められた自己正当化

夕暮れ時、ホワイトハウスのバルコニーに立ちマスクを外すトランプ氏(写真/Sipa USA/時事通信フォト)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、新型コロナウイルスに感染し、復帰したトランプ米大統領について。

 * * *
 トランプ米大統領が10月5日、力強くホワイトハウスに凱旋を果たした。空が夕焼けに染まり始めた頃、ホワイトハウスの庭に大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」が着陸すると、姿を見せたトランプ氏はしっかりとした足取りでタラップを降り、芝生の上を歩き出した。

 無謀すぎる。絶対、おかしい。大丈夫なのか。多くの、いやほとんどの日本人はこの映像を見てそう思ったに違いない。

 新型コロナウイルスに感染し入院したものの、わずか3日で退院。ホワイトハウスに戻ってきたトランプ氏は、バルコニーに立つとマスクを外した。肩で息をしている様子はあったものの、親指を立てて健在ぶりをアピールし、敬礼までして見せた。それを見た瞬間、私の脳裏には“コミットメントのエスカレーション”そんな心理用語が浮かんだ。

 この公開された動画はよく出来ていた。まるで映画さながら、壮大な演出が施された印象的な映像で、見ている者の心をぐっと掴む。夕暮れ時という時間を選んでいるのもズルい。微妙な空の色も相まって「帰ってきた」という印象を強くするだけでなく、人があまり物ごとを深刻に捉えず、その状況を受け入れてしまいやすい時間帯だとも言われている。

 本当に退院して良いのか、周りの人たちに感染させないのか。退院できるほど回復したのか、悪化することはないのか、克服したと言えるのか、不安材料は尽きない。そんな懐疑的な見方があることを見越して、少しでも和らげようとこの時間を狙って動画が録られたのかもしれないとも思う。

「私はコロナウイルスについて多くを学んだ。コロナに支配されるな、恐れるな」、「コロナに人生を左右されるな」。トランプ氏は動画の中で、滔々とした調子でこう話した。入院前に公開された動画の時より声に力があり、語尾には抑揚がある。入院前よりは体調はマシなのだろう。

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