独居老人を手当たり次第、の可能性
さて、改めて筆者が取材した4件の被害例をみると、防犯カメラの有無、資産の有無、そしてアポ電の有無など異なる部分も多い。それでも共通するのは、そこに「高齢者がいた」という点である。さらに、首都圏で同時期に起きた他の「点検強盗」の記録を見ても、被害者はいずれも70代以上の高齢者だ。
特殊詐欺やアポ電強盗について、前期高齢者である筆者の母親は「うちは取られるものはない」と高笑いしていたが、こうなってくると話は変わる。資産がなくともアポ電がなくとも、そこに年寄りがいれば襲われる、そんな事件が頻発しているというのが、偽らざる事実なのである。
さらに気になるのは、犯行が場当たり的に、雑に行われていることである。一般的に、アポ電などを経て強盗に入る場合は、先方に資産があるか、自宅にまとまった現金があるかを確認する。でないと割に合わないからである。しかし、今起きている一連の強盗事件はいずれも、被害額は決して多くない。SNSでの応募が犯行に加わるきっかけになっていたり、実行犯の背後には指示役がいることは間違いなさそうだが、「老人宅を狙え」という単純な指示しか出されていない可能性がある。
また、雑で場当たり的だからこそ、犯行から時間を置かずして実行犯が次々と逮捕されているところを見ると、彼らはことごとく「使い捨て」の駒にされていることも伺える。今、全国で次々に摘発されている「持続化給付金詐欺」の被疑者らにもこれは共通するが、実行犯達はあまり考えることもないため……もしくはヤケになってなのか「すぐにバレる犯罪」に手を染めたり、染めるよう強要されている。
詐欺や犯罪は、健全な生活、経済があるからこそ発生する。コロナ禍のような前代未聞の状況下では、詐欺師などの犯罪者もお手上げである、というようなことを、特殊詐欺に関わった経験のあるネタ元から聞いたこともあった。地面師のように一カ所から十億、百億、いやそれ以上の莫大な資金をかすめとる詐欺ではなく、少し余裕のある人から薄く広く集める特殊詐欺ならではの事情ではあろう。その彼らにとって、少し余裕がある人たちが持つ普段のうかつさ、いや、お人好しぶりを奪っている今年の状況は、得意のやり口を塞いでしまっているのだろう。
だがいま、日常生活が少しずつ取り戻されている。観光地や繁華街に人が戻り始め、約半年も続いた辛抱だらけの生活から解放されたと、社会全体が気をゆるめている段階だ。そこを見逃さない連中がいる。犯罪者達は半年強の「遅れ」を取り戻すべく、なりふり構わず堂々と犯罪を行なっており、それが点検強盗や給付金詐欺のような形で、社会に露呈し始めている。
被害を防ぐためには何事も「うちには関係がない」で済ませてはいけない。たとえば都市部だけの犯罪だと言われていたタイプの犯行手口が、あっという間に全国に広がった例はいくらでもある。点検強盗団が地方に拡大し、独居老人宅を手当たり次第に狙う、ということも十分に考えられる。大げさでなく「命を守る行動」がここでも求められるのだ。