防犯カメラがない集合住宅はまだ多い
収入や生活状況によっても変わるが、同アパートは3万円代後半からの家賃で入居できるため、資産の乏しい年金暮らしの高齢者、生活保護受給者も多いという。オレオレ詐欺だろうがアポ電強盗だろうが、ターゲットが「金持ち」であることが前提だと広く知られているため、住人の誰もが厳しい防犯の必要性を感じていなかった。なぜ犯人が電話も持たず、30万円のタンス預金はあったとはいえ、慎ましい暮らしを続ける高齢者を狙ったのか。事件を取材した民放社会部記者がいう。
「現場はアパートの最上階で、押し入っても人目につきにくい場所。さらに、同アパートには防犯カメラなどが一切なかった。住人は『詐欺事件とは無縁だったのに』と驚いており、今では付近をパトカーがひっきりなしに巡回するほど警戒を強めています」(民放社会部記者)
防犯カメラがなく、人目につきにくいとはいえ、それだけの理由で強盗に入るとは考え難い。そんな疑問を抱きつつ、次に訪れた現場は、同じく都内のB区。古い住宅街が広がるエリアだが、山手地区で進む再開発の影響で、富裕層が住む豪華な戸建ても目立つ。狙われた結城さん夫婦(共に80代・仮名)宅は、そんな豪華な戸建て住宅に挟まれるような立地にあり、古さは感じられるも、庭や玄関先の木々の手入れも行き届いた、清潔で、こぢんまりとした家である。訪ねると、事件を受けて急遽実家に帰っていた結城さんの息子が取材に応じた。
「アポ電の類はなかったと父親は言っています。(個人情報が漏れるような)通販をやったという記憶もない。付近では一番古い家だから狙われたのか……。思い当たる節はありません」(結城さんの息子)
結城さん宅へ点検強盗に入った20代の男、50代の男2人はすでに逮捕されている。分かっている彼らの手口は、やはりガス点検を装い室内に侵入した後、夫婦を「騒ぐな、殺すぞ。金はどこだ」と脅した上で、両手両足を粘着テープで縛ると、バッグなどに入った6万5000円を強奪。結城さんの父親はもみ合いでケガもしている。改めて結城さん宅を確認してみると、防犯カメラはおろか、インターホンや呼び鈴の設置すらないのである。アポ電もないし、富裕層でもない高齢者だけが住む、防犯カメラもインターホンもない、というのが、前出の被害者・酒井さんと共通する部分ということになる。
管理人も防犯カメラもあるが「穴だらけ」
B区からおよそ20キロ離れたC市の戸建て住宅にもガスではないが「点検強盗」に類似した事件が発生していた。取材する全国紙社会部記者が解説する。
「役所の人間を装い、新型コロナウイルスに関連したアンケート調査に協力してほしいとインターホン越しに呼びかけ、嘉島さだ子さん(80代・仮名)とその息子が住む一軒家に、20代の男2人が押し入りました。女性は協力を断ったようですが、男らは裏口から勝手に侵入。女性を殴りつけたり縛ったりして、キャッシュカードや現金を奪ったのです」(全国紙社会部記者)