少し前に、堀江貴文が広島県の尾道で餃子店に入ろうとしたところ、このマスクの件でトラぶったという話があった。同行者の1人がノーマスクだったことで入店を拒否され、堀江が店主と揉めたそうなのである。そのちっぽけなトラブルについて、圧倒的な配信力のある彼がフェイスブックで公開投稿。餃子店の店主もブログで反論したところ、炎上してしまい、結果、いたずら電話が店にがんがんかかってきて、奥さんが体調不良となり、店は休業に追い込まれてしまった。
この件は、店側も下手に反応しないでやり過ごせば良かったのだが、それ以上に、堀江貴文の最初の投稿に問題があったと思う。部分引用すると、彼はこんなふうに書いた。
〈「ウチはマスクしてないと入店できないんです」の一点張りで話が先に進まない。そしたら店主らしき人が出てきて「ホリエモンか?」とかいきなり言われて、同じ話をしたら「面倒くさいんで入店しないでくれ!」とピシャリ。マジやばいコロナ脳。狂ってる〉
〈とにかく来店時さえマスクをつけて黙っていろってスタンスなんだろうけど、別にマスク着用を拒否してるわけでもなく、ルールの厳しさを聞こうと思ってるだけなのに超失礼な対応されて怒りに震えてる。なんかピーチの飛行機の中でマスク拒否して飛行機降ろされた人じゃないけど、そろそろこのマスク原理主義なんとかならんもんかね。社会がギスギスしてる〉
ううむ、社会のギスギスは、こういう投稿で尚更増してしまうのではないだろうか。
文中とても気になったのは、彼の言葉使いだ。〈そろそろこのマスク原理主義なんとかならんもんかね〉と、斬って捨てる系の侮蔑語をここぞと使用している。そして、前段の〈マジやばいコロナ脳〉。「コロナ脳」というスラング、これも非常に侮蔑的だし、使ったら最後、そこから先に何かあるかもしれない相手の事情への想像、それこそ思考をストップさせるやばい言葉なんじゃないだろうか。
餃子店の店主がなぜ強くマスクに拘ったのかはわからない。が、その人ならではの考え方、基準があるはずなのである。店には「マスク未着用の方はお断り」という張り紙がされていたそうだが、それがこの店主の方針であり、意思表明である、そういう人もいるよね、とりあえず以上ということでいいんじゃないだろうか。
繰り返すが、人にはそれぞれの事情がある。たとえば、医療や介護従事者は人一倍コロナに敏感だ。なぜなら、もし自分が感染してしまったら、職場全体が検査対象になり、活動をストップしなければならなくなる可能性が高いからだ。
家族に高齢者や基礎疾患のある人がいる場合も、敏感になる。重症化や死亡リスクへのリアリティが、そうでない人に比べて格段に高い。身近な人に問題がなくたって、そもそも心配性の人もいる。それはもしかしたら、動物の個体として慎重に行動しないと生存しにくい身体の持ち主だから無意識にそうしているのかもしれない。
対立構造をこじらせる効果しかない
そんなこんなの事情がいろいろあるのだから、侮蔑語のレッテル貼りはやめようじゃないかと、言っておきたいのだ。特に「コロナ脳」には強い攻撃性を感じる。かつて「放射脳」というスラングがあったが、あれと同じだ。対立構造をこじらせる効果しかない。ためしに、ツイッターを検索してみると、以下のように使われていた。
〈左翼というのは物事を上っ面だけでしか見れない。差別があれば差別はよくないと叫ぶし、感染が広がればロックダウンしろと叫ぶ。何故そうなのかを全く考えられない。ツイッターだと面白い具合に左翼はコロナ脳だし、コロナ脳は左翼。自分のことを頭がいいとは思わないけど、左翼は本当に頭が悪いと思う〉
〈コロナ脳は疑問力が0未満で、普通なら疑問に思う事も疑問に思わずスルーしてしまう。この何も考えてないろくでもない常識に凝り固まったバカが、こちらが非常識だみたいに確信をもってバカにしてくる。 この馬鹿たちには猛烈に腹が立つ。思考できないくせ偉そうに主張するんじゃねえよ〉
〈コロナ脳ババアマジで死ねよ そんなにソーシャルディスタンス(笑笑)守りてぇーならバス乗んなよ高齢者なんたらでタダ乗りしてる分際で文句言うんじゃねーよアホ〉
読むほどに殺伐としてこないだろうか。こんなふうに誰かを「コロナ脳」呼ばわりして、何かいいことあるはずない。