芸能

柳亭市馬 寄席のトリかくあるべしという風格の見事な高座

柳亭市馬の『三十石』に酔いしれる(イラスト/三遊亭兼好)

柳亭市馬の『三十石』に酔いしれる(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、緊急事態宣言が解除されて初めて行った寄席、上野鈴本演芸場夜の部での柳亭市馬の粋な計らいについてお届けする。

 * * *
 あの緊急事態宣言で寄席が全面休業する前、僕が最後に通った定席は4月3日・上野鈴本演芸場夜の部だった。この日は赤坂区民センターでの柳家小三治独演会のチケットを持っていたのだが、6月に延期(のちに中止)となったため、三遊亭歌奴がトリを務める鈴本に向かったのである。

 歌奴が演じたのは『五貫裁き』。よく通る声でダイナミックに演じる歌奴は僕の好きな演者で、以降もできるだけ多く鈴本に通おうと思っていたのだが、結局この芝居はこの日で終わってしまった。

 その後、新宿と浅草は6月、上野と池袋は7月に営業を再開したが、僕自身が最初に足を運んだのは、最後に行った日からちょうど5か月後の9月3日。柳亭市馬が主任を務める上野鈴本演芸場夜の部である。

 ソーシャルディスタンスを保つため座席には一つ置きに「使用禁止」の表示があり(最前列は全面封鎖)、演者交代の間に係員が頻繁に客席を回っては「マスク着用、飲食禁止」を呼びかける。途中入場が当たり前の寄席ならではの心遣いだ。

 台詞の強烈なメリハリがやたら可笑しい古今亭文菊の『強情灸』、全編オリジナルギャグの三遊亭圓歌の『やかん』、そして古今亭菊之丞の『天狗裁き』や古今亭志ん輔の『宮戸川』といった手練れの落語の合間に、太神楽曲芸や漫才、紙切りなどの色物が彩りを添える寄席ならではの雑然とした雰囲気が心地好い。

 粋曲の柳家小菊がヒザを務め、トリの市馬が高座へ上がる。旅のマクラを振ってから『三十石』へ。これが、実に素晴らしかった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン