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評価値99対1から大逆転負け 藤井二冠が天敵に勝てない訳

またも初白星ならず…(右は豊島二冠、時事通信フォト)

またも初白星ならず…(右は豊島二冠、時事通信フォト)

 天才棋士がまたも“天敵”に行く手を阻まれた。破竹の快進撃を続ける藤井聡太二冠(18)だが、10月5日の王将戦挑戦者決定リーグでの豊島将之二冠(30)との対局では、171手で投了に追い込まれた。これで豊島二冠との対戦成績は0勝6敗。しかも、終盤は一時、AIの評価値(形勢判断)で「藤井99対豊島1」という“圧倒的有利”からの逆転負けを喫したのだ。

 将棋ライターの松本博文氏も驚きを隠さない。

「終盤の寄せが正確で、詰将棋解答選手権で前人未到の5連覇を果たした藤井二冠は、逆転負けが極めて少ない。もちろん、様々な罠を仕掛けてチャンスを逃さなかった豊島二冠が見事でしたが、藤井二冠が終盤にミスを重ねるという普段なら考えがたい展開でした」

 ただ、トップ棋士が時に思いがけない“凡ミス”で大逆転されるのも、将棋の面白さだと松本氏は続ける。

「将棋では、最善手で対応すれば詰まなかった局面で、応手を間違えて自玉が詰まされてしまうことを『頓死』といいます。史上最強の棋士である羽生善治九段(50)も大一番でそういう経験がある。有名なのは2001年の竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局。勝勢のなか終盤で王手を掛けられ、アマチュア初段以上の棋力があれば正しく逃げられるような状況で、唯一、詰んでしまう場所へ玉を動かしてしまった」

 とはいえ手痛い敗戦により藤井二冠が今期、王将を獲得して三冠となるのは難しくなった。渡辺明名人(36)、永瀬拓矢王座(28)らタイトル保持者にも勝ち越し、勝率8割3分超の藤井二冠だが、豊島二冠にだけは勝てない。苦手意識が“まさかの大ポカ”の背景にあったのか。

「かつて加藤一二三九段(80)が中原誠16世名人(73)に全く勝てない時期があり、一時は対戦成績が中原さんの21勝1敗になった。いつも互角なのですが、最後に加藤さんが逆転されるなどしていたのは、今の豊島二冠と藤井二冠の関係に重なります。ただ、実力に大きな差があるわけではない。後年は加藤さんが中原さんから名人位を奪うなど、対戦成績も拮抗していった(最終的には中原氏の67勝41敗)。2人の関係もいずれはそうなっていくのではないでしょうか」(同前)

 藤井二冠の“初白星”への挑戦は続く。

※週刊ポスト2020年10月30日号

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