穴党氏の内懐を知るのは友人のみ。見栄もヘチマもない。穴党氏が馬券を頼むとき、「絶対来るぞ! ご祝儀期待してろ!」といった様子で、常に上機嫌のイケイケ。投入金額で本気度も分かる。そして大穴的中でドドッとリターンが増える。
回収率云々といったことよりも、「これは、と定めた穴馬にアグレッシブに突っ込む」ことに無上の喜びを感じているような穴党氏。大的中でも連敗続きでも立ち居振る舞いは変わらない。フォームができあがっている。
それを語る友人の顔がまた楽しげだ。競馬は楽しまなくちゃ。
ただし思いがけない憂慮もある。友人もネットに予想記事を書くプロ。自分の予想と穴党氏の買い目がまるで違う場合、「はて……」と心が揺れるというのだった。私だったら「ちょっと乗ってみるか」と思うかもしれない。
検討が揺れ、据えたはずの腰を浮かせたとき、たいていは失敗する。他人の内懐の扱いは難しいのである。
【プロフィール】
須藤靖貴(すどう・やすたか)/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年10月30日号