芸能

北野武が語る「コロナ時代の閉塞感」との向き合い方

不完全燃焼の日々で出会った「新宿」

 だけど、さらにさかのぼると、芸人として世に出るまでの俺には全く別の感覚があった。それは、「死ぬのが怖くて怖くてたまらない」という思い──言い換えれば、「何もやり遂げないうちに死んでたまるか」という焦りのようなものだった。

 最近暇があったらいつも小説を書いているんだけど、このたび本になったのが『浅草迄』だ。俺が浅草にたどり着くまで、新宿あたりでブラブラしたり、タクシー運転手やらのアルバイトで食いつないでいた頃を書いている。

 足立区の下町で過ごしたガキの頃や、フランス座で師匠の深見千三郎さんたちと過ごした浅草時代については、いろんなところで話したり書いたりしてきた。だけど、高校から大学にかけて、とくに浅草に行き着くまでの時代は、これまでしっかり話したことがなかった。

 それはやっぱり人生で一番悶々としていた時期だったからだろう。さっき話したように「死ぬのが怖い」と考えていたのが、まさにこの頃だった。

 高校生活は、自分のせいと言ってしまえばそれまでなんだけど、何も考えることなく、ただダラダラと学校に顔を出すだけの日々だった。

 都立高校だからそんなに馬鹿でもないけれど、とはいえ東大京大など国立のいい大学に入った利口な奴は誰もいない。俺は相変わらず勉強そっちのけで遊んでばかりいた。

 じゃあ大好きだった野球に打ち込んだかといえば、そっちも中途半端だった。野球少年の夢といえば甲子園を目指すことだけど、俺の高校の野球部は硬式ではなく軟式で、みんな下手だったし、たいした達成感も思い出もないまま終わってしまった。

 で、その不完全燃焼は大学時代も続いた。

 何とか入った明治の工学部は、俺の時代からお茶の水の駿河台ではなく、神奈川県の生田の新校舎に移っていて、足立区の実家から2時間かけて通わなければならなかった。毎日こんな思いをして学校に通うのかと、初めの一週間で嫌気が差した。

 母ちゃんが「これからの時代はエンジニアだ」というから工学部に入ったけれど、自動車メーカー志望の同級生が教室で話している「○○が開発したエンジンはすごい」なんていう話にはまるで興味が持てなかった。

 普通に仕事をして、給料をもらって、家庭を持って──高度経済成長のこの時代、日本中がみんなそういうステレオタイプな「幸せ」を目指していたし、俺自身も「おふくろ」というフィルターを通して、それを強要されていた。だけど、どうもその流れに馴染めずにいたんだよね。

 そんなとき、何より魅力的に映ったのが「新宿」という街だった。ジャズだったり、寺山修司の天井桟敷や唐十郎の紅テントだったり、横尾忠則の絵だったり……。その時代の新しい文化みたいなものが芽生えてて、ガツンと洗礼を受けた。

 大学に行くには新宿駅で小田急線に乗り換えなきゃいけないんだけど、1年生の夏休みが終わる頃には、ジャズ喫茶に入り浸って、もう新宿より先にはほとんど行かなくなっていた。そこで見聞きする色々な新しいことに影響されては、どこかで聞きかじった浅い知識を蓄える毎日だった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン