もしかしたら、この歳になって小説を書き出したのも、そういうことなのかもしれない。
やっぱり歳を取ると、アドリブが利かなくなるんだよ。「このタイミングでコレを言えばウケる」って、自分じゃ「間」も「言うべきこと」も全部わかってるのに、言葉が出てこない。昔、ジャンジャン漫才やってるときは、考える前に言葉がスラスラあらゆる状況で出てきたんだけど、今はそうはいかない。
だけどそれに絶望している暇はない。文章なら、書き直したり、推敲もできるからね。小説は、そうやってひとつひとつ積み上げていくことができる。今はそれがとにかく楽しいね。
どんなに小さなことだって構わない。そうやって「自分の中でコツコツ積み重ねていくこと」──もしかしたら、それがこんな時代を悲観せず、生き抜くヒントになるんじゃないだろうか。
◆撮影/渡部孝弘