『バチェラー・ジャパン』出演で注目を浴び、飛躍したモデルでタレントのゆきぽよこと木村有希(時事通信フォト)

『バチェラー・ジャパン』出演で注目を浴び、飛躍したモデルでタレントのゆきぽよこと木村有希(時事通信フォト)

 自分が足りない部分を持つ異性に惹かれることは多い。絵は誰でも描けるが、人前で描ける人はそうはいない。この時点でまず優位性がある。日常の100倍以上のロマンチックが満ちた空間で「アナタを想って描きました」と絵を渡されれば、誰もがときめく。また、杉ちゃん、倉田と共にバチェロレッテ、バチェラーと自身が「真実の愛」の旅路で見つけたことを加筆していった。この作戦とコンセプトは参加前に練ったことだろう。表現の中に自身が登場することは、経験豊富なバチェロレッテ、バチェラーにもないはず。クリエーターは会話と表現の2つで心を繋げられるから強い。

 ただし、非日常かつ画力がある2人だから最大の効果をもたらしたともいえる。僕も女性と飲んでいた時、「似顔絵描いて!」と頼まれた経験が何度かある。コースターに描いて渡すと喜んでくれるが、1時間も経つと再びグラスの下に戻っていた、そんなこともよくある。

 高校時代、同級生だった谷島(この時、童貞)が「女性にはギャップとサプライズ」とよく言っていた。当時は、その言葉が至言とは気づいていなかったが、今になるとその正しさがよくわかる。多くの女性が杉ちゃんに惹かれたのは、柔和な態度と言葉の強さを持つ稀有な男性だったからだ。

 これまた『バチェラー』シーズン2に出演していた野田あず沙は、最後に残った2人の「好き」の使い方について「杉ちゃんは『たまらなく好きなんだよね』と言い、黄皓さんは『ちゃんと好きだよ』と言う。『ちゃんと』とはいらないんです!」と熱弁していた。続けて「男性は『好き』の使い方、気をつけたほうがいいですよ!」と教えてくれた。観ていた際は全く気づきもせず、そして本音を書けば、今でもどっちでもいいじゃんと思っている。しかし、細部に神は宿るとはよく言ったもので、女性が言葉を信頼するか否かのポイントは細部にあるのだろう。

 確かに個別インタビューのシーンで誰よりも言葉を吟味していたのが杉ちゃんだった。一般的な男性は沈黙を恐れ、すぐに返答することを心がけている。早さといった利点もあるが、熟考せず返した言葉にたぶん神は宿っていない。振り返ってみれば、福田と杉ちゃんのやりとりには言葉ではなく心で会話する時間も多分にあった。ある程度、良い印象を抱かせることに成功しているならば、沈黙は相手に自分の良さを想像させる時間に変わる。

 僕らも沈黙を有意義に使うことを学んだほうが良いかもしれない。黙った後に出てきた言葉が冴えていない場合の言い訳を準備しつつ……。

 最終話と同時に配信されたエピソード10「アフターファイナルローズ」で杉ちゃんは、バチェロレッテ・福田に2度目の告白をした。しかし、そこでも彼の愛は受け入れられることはなかった。杉ちゃんの全ての野望は達成されることはなかった。しかし、もう一つの野望であるアーティストとして知名度を向上させることは達成された。芸能人のアーティストが多い日本では、作品よりも作家のパーソナリティーが重要視されることもある。そういった点において、杉ちゃんの柔和な態度と言葉の強さといった優れた人格は『バチェロレッテ』によって、全世界に配信されたのである。番組に参加し、これほど好感度を向上させた人は『バチェラー』シーズン1に参加したゆきぽよ以来だ。彼女も『バチェラー』というゲームで勝者にはなれなかったが、芸能生活の成功といった野望は叶えている。今後、杉ちゃんもゆきぽよ同様に人生の勝者への道を邁進していくのだろう。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで月一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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