NHKも6年前に「いぞん」の軍門に下ったのだから、辞書もそろそろ……ということかもしれない。たった一つの言葉の読みに、これだけの調査をするのだから、辞書を作る苦労がうかがい知れる。飯間氏が、もう一つ「そん」が濁音つきの「ぞん」に変わりつつあるケースを教えてくれた。
「1981年に放送されたNHKの『価格破壊』というドラマがありました。スーパーの経営者が奮闘する経済ドラマでしたが、主演の山崎努さん(1936年生まれ=当時44~45歳)は、『共存共栄』を『きょうぞんきょうえい』と濁って発音していました。しかし、同じドラマに出ていたもっと上の世代の役者は『きょうそん』と発音していたんですね。同じドラマでも世代が違うと発音が違うというおもしろいケースでした。そして、1980年代でも、すでに『きょうぞん』と濁っていたのだから、今も当然それで問題ないだろうと判断するわけです」
かくして、「いそん」か「いぞん」かは人々の使い方に依存し、「きょうそん」と「きょうぞん」は、いまだ共存しているようだ。