“バディ”と言っても、本作に見られるそれは多くの人の頭に浮かぶようなものとは異なる。阿久津も曽根も、35年の時を経て偶然事件に巻き込まれた全く立場の違う2人であり、例えばドラマ『MIU404』(TBS系)での星野と綾野剛(38才)のような、同じ立場同士の協力関係でもなく、刑事ドラマなどでよく見られる“カリスマ”的要素を含んだバディ関係でもない。どこにでもいる“普通の人”同士のバディ感である。

 阿久津を演じる小栗は“スター”のイメージが強くあるし、曽根役の星野も“稀代のエンターテイナー”という印象が世間では強い。実際、生の舞台上での小栗は、セリフを発さずともただそこにいるだけで圧倒的なオーラを感じさせるし、星野は俳優のみならず音楽家や文筆家としての顔も持ち、快活な印象が強い。そんなパブリックイメージが広く浸透している2人が、本作ではあえて市井の人々の一人に過ぎない“普通の人”を演じていることに新鮮味を感じた。

 阿久津は被害者を前にした新聞記者としての仕事に葛藤を抱えているし、曽根は自身が犯罪の片棒を担いでしまっているのではないだろうかという不安に苛まれている。悲しみや苦しみを表現する時、セリフや表情で露骨に示すことも可能だが、本作ではそうした芝居や演出が限りなく排除されている。小栗にも星野にも、感情を表すオーバーアクトは許されていないのだ。

 だが、よくよく思い返せば、小栗も星野も“普通の人”の役にハマるのは納得だ。小栗は『キツツキと雨』(2012年)での気弱な新人映画監督役や、失意の小説家を演じた『響-HIBIKI-』(2018年)のように、何かが欠如している人物の演技が素晴らしい。そうした要素が今作での阿久津役にも控えめながら見られ、小栗本人の持つスター性と絶妙なバランスを保ち、普通の人の“非日常”を見せてくれた。コメディからシリアスまで出演作を重ねる度に新しい顔を見せる星野も、今作では真相に迫るにつれて幸福感が欠落していく様を細かな挙動に宿らせた。互いの立場を理解し合うことで、欠けたものを補い合っている、そんな“普通の2人”のバディ感が、本作の成功の大きなカギの一つのではないだろうか。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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