新型コロナウイルス感染拡大の影響で、社長が交代した企業も多い。サラリーマンにとって出世の頂点である社長就任の瞬間が、抗いようもない厄災による逆風の真っ只中だった――。
今年6月、JTBは常務執行役員の山北栄二郎氏が社長に昇格した。山北氏は欧州本社代表を務めるなど、JTBのグローバル戦略を担ってきた。本来なら業界最大手の“華々しい社長デビュー”となるはずが、コロナの猛威で旅行産業は壊滅の危機に直面していた。月刊誌「経済界」編集局長の関慎夫氏が語る。
「海外旅行事業の売り上げが消えて、今後の見通しも立たず、国内旅行だけでは立ち行かない。JTB欧州本社代表を務めた山北社長の経歴も、コロナ禍では活かせない。コロナ収束とともに一気に海外旅行事業で巻き返そうという目論見だったのかもしれませんが、現状では先が読めない」
新社長となった山北氏のもとでJTBは6500人の人員削減や店舗削減に踏み切った。11月の会見で山北氏は「人員を調整するのは断腸の思いだ」と漏らした。
「同社の拡大戦略の担い手だった山北氏にとって、最初の仕事がリストラだったというのは皮肉な巡り合わせとしか言いようがありません」(関氏)
「ポールスチュアート」などのアパレルブランドを展開する三陽商会では、5月末に社長が交代した。今年1月に社長に就いたばかりの中山雅之社長が副社長に降格し、72歳(当時)の大江伸治副社長とバトンタッチした。
株主総会を経た会見では、4期連続の最終赤字からの船出となった新社長の大江氏が、副社長に留まることになった中山氏の経営責任について「ないとは申しませんが、過去より今後の再建の確実な実行の方が大切」と語る一幕もあった。関氏が語る。
「外出自粛となればファッション業界の打撃は避けようがありません。中山氏は社長に就任したとたんにコロナが広がってしまい、本当にタイミングが悪かった。新社長の大江氏は高齢ですが、三井物産出身で、そのパイプを使って資本を入れるための人事とみられ、財務強化が優先課題であることが窺えます」