(EPA=時事)

ステイホームの潮流で大ヒット(EPA=時事)

 不慮の事故で北朝鮮にパラグライダーで不時着した韓国の著名な女実業家(ソン・イェジン)が、北朝鮮の軍人(ヒョンビン)と出会い、やがて恋に落ちる。ヒョンビンの紛うことなき二枚目ぶり、ソン・イェジンのとぼけたチャーミングさにうっとりしながら、観客の心の中で国境線はみるみるうちに溶けていくのである。

 拙作『DASPA 吉良大介』シリーズの主人公吉良大介は国家を信じようとしている。言い換えれば、日本民族の絆を信じようとしている男である。

 吉良が『鬼滅の刃』を見れば、鬼に国際金融資本らのグローバリストを読み取り、「炭治郎がんばれ!」と叫ぶかもしれない。一方、『マザー』を見てボロボロになった絆の現実に目を覆うかも知れないし、怒りをたぎらせるかも知れない。また『愛の不時着』には、分断されているが故に濃い血の絆への志向を確認するかも知れない。

 いずれにしても、2020年は血と家族と共同体へ人々の関心が向かった年であった。それを受けてこれから吉良がどう動くのかを僕は考えている。

【プロフィール】榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。小説家。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年、映画『見えないほどの遠くの空を』を監督、同名の原作小説も執筆。2015年『エアー2.0』(小学館)を発表し注目を集め、小説家としての活動を本格化させる。2018年に異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』(中公文庫)を、2020年夏にそれと同時進行する物語『DASPA 吉良大介』(小学館文庫)を発表。この冬には真行寺シリーズ5作目となる『インフォデミック』(既刊)とDASPAシリーズ第2弾『コールドウォー』(1月4日発売)を連続刊行。コロナ禍の現在に起きた一つの事件を、2人の主人公(ヒラの刑事=真行寺、警察キャリア官僚=吉良)それぞれの視点から別の作品として描くという異例の試みをしている。

 

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