(時事通信フォト)

役者として次のステージに進んだ(時事通信フォト)

長澤まさみが『マザー』で演じた母親役のおぞましさ

 一方、問題のある家庭に留め置かれた子供が味わう地獄は『マザー』(監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣、港岳彦)で壮絶に描かれる。

 この母親役を演じるにあたって、長澤まさみは増量して現場に入ったという。その自堕落で身勝手な母親は実にリアルでおぞましい。本作によって、長澤まさみは役者として次のステージに進んだと言っても過言ではないだろう。

 しかし、この母親を見るにつけ、母性も血の絆も幻想に過ぎないという気分になり、そこには腐りきった共依存があるだけで、もはや家族という単位こそ疑うべき時が到来しているのではないかという気さえしてくる。

 監督・脚本の大森立嗣は、この母親と息子に世間から排除されたものどうしの絆を見ようとしているようだ。このような強引さは、アカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン)にも見られた。

「民族の絆」の可能性を語る『愛の不時着』

 映画興行は大変な苦戦を強いられることになったが、ステイホームの潮流で飛躍的な市場拡大に成功したのが、動画配信サービスNetflixであった。

 この配信プラットフォームで注目を集めたのはなんと言っても『愛の不時着』(脚本:パク・ジウン 監督:イ・ジョンヒョ)である。本作では、血の絆、家族の不安定さと同時に、家族が拡大した民族の絆の可能性が、ロマンチックコメディという形を借りて雄弁に語られる。

 

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