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坂東眞理子・小笠原文雄対談【1】死を考えるきっかけとなったコロナ

坂東眞理子さん

『70歳のたしなみ』の著者で昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さん

 新型コロナウイルスは生活様式だけでなく、将来の展望すらも大きく変えた。不自由な生活が強いられる中、気持ちは前を向いて生きていきたい──。著書『70歳のたしなみ』で後半生を黄金時代に変える心構えを説いた昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さんと、『なんとめでたいご臨終』で最期まで朗らかに生きて旅立った人たちのエピソードを明かした在宅医療の第一人者・小笠原文雄さん。ベストセラー著者2人が、コロナ禍に考えておきたい生き方、死に方について語り合った。

坂東:昨年は新型コロナウイルスによって「死」を身近に感じた一年でした。私たちは普段あまり考えることもなく、昨日までと同じように明日も生き続けられると思っていたけど、実はその根拠は何もありません。コロナが出てきたことで、“あっ、コロナにかかったら死ぬかもしれない”と気づき、少し立ち止まって考えるきっかけになりました。

小笠原:医療現場はまさに死に物狂いの年でした。小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニックでも、当初「危ない」と思ったときには、院内感染を避けるため防護服を着用して帽子を被り、マスクとフェイスシールドを完備して汗だくになって診療しました。ひとりの患者が終わると一式をすべて捨てて、院内の消毒をしたんです。さらに、コロナの発生で、病院から患者が「緊急退院」するケースが増えたんですよ。

〈緊急退院とは小笠原さんの造語ですぐに退院することを指す。「家に帰りたい」と願う入院患者が余命宣告を受けたり、いつ死ぬかわからなくなったとき、小笠原さんは患者が生きているうちに願いを叶えるため、すぐに退院して在宅医療に切り替えられるよう病院と連携している〉

小笠原:人工透析を週に3回やっていた患者の血圧が下がり、心不全を起こしていつ死ぬかわからない状況になったケースがありました。いまはコロナ感染予防のため面会できるのは1日1人だけで、面会時間は10分。しかもその患者は入院中にボケてしまって、娘の顔がわからなくなった。ぼくは相談外来に来た家族から「死に目に会えない。どうすればいいか」と心の内を明かされ、緊急退院となりました。

坂東:すると、どうなったんですか。

小笠原:わが家に帰ると、苦しくて何も食べられなかった人が食べられるようになったんです。そして、旅立たれた直後、涙を浮かべた家族が故人と一緒に「笑顔でピース」の写真を撮られたんですよ。家族からは「こんな幸せな2週間をくださってありがとう」と感謝されました。

坂東:家族も満足したんですね。

小笠原:はい、そうです。軽い脳梗塞で入院したら、血圧が一気に200以上まで上がり、心臓に負担がかかって死にかけたケースもあります。このかたも、コロナで家族の面会が制限されて、「どうせ死ぬなら家がいい」と緊急退院で家に帰ったら、なんと血圧が下がり、心不全も治り、半年後も娘とお買い物を楽しんでいます。つまり入院しているから病気が悪くなるケースが結構あるんです。

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