浪花千栄子の特徴であったまくし立てるようなセリフ回しは完全に物にしているように思えるし、劇中での関西弁は、実際の関西人が聞いても「違和感がない」ほどだという。また、彼女を取り囲むのは、どうしようもない父親役を演じるトータス松本(54才)や、奉公先で千代を厳しく躾ける女将さんを演じる篠原涼子(47才)、千代に芝居の“いろは”を教えた山村千鳥役の若村麻由美(54才)など、誰も彼もがアクの強いベテランばかり。だが杉咲は、時に流麗で、時にマシンガンのようなセリフ回しを武器に、このメンツを相手取り対等に渡り合っており、若いながら熟練されたテクニックが感じられる。その姿が非常に頼もしいのだ。
新型コロナウイルスという未曾有の事態の中で、なんとか有終の美を飾った前作の朝ドラ『エール』からバトンを受け取った『おちょやん』。当初の予定より2か月も放送開始が遅れたが、この環境下で、杉咲の発するセリフや眩しい笑顔が、大いに日本の朝を活気付けてくれている。SNSには「こんな状況でも、放送を止めずに毎日作品を届けてくれることに感謝したい」といった言葉も見られる。もし、千代を演じたのが新人俳優だったら、頼りなく感じて不安になっていたかもしれない。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。