ちなみに、新川さんのプロフィールはかなり異色だ。東京大学大学院を卒業した年に司法試験に合格した才媛だが、司法修習生時代には麻雀のプロテストにも合格。公式戦に出場していたというから恐れ入る。
「高校では囲碁部で全国大会に出たりもしたのですが、途中から麻雀を覚えてハマり、大学に入ってからはほぼ青春を麻雀に捧げた感じです。ところが、若い女性というだけで、麻雀が打てると言っても信じてもらえない。それが悔しくて。プロ資格を取ったらあれこれ言われないだろうと」
もっとも、そこから小説へと方向転換したわけではなく、十代から作家志望ではあったらしい。手に職的に士業に就いたのも、長期戦を覚悟してのこと。
「私自身が、大きな法律事務所で企業の取引を担当していたのは麗子と同じ。弁護士として働いていても裁判所に行ったことがないし、弁護士バッジもつけたことがないんです。その上、ハードワーク過ぎて執筆の時間も取れなかったり、身体を壊したりして、よけい『やりたいことは、いまやらねば』と思ったんです」
夢に立ち戻り、小説教室に通い始めたことが現在につながっている。実はすでに続編を執筆中だとか。
「受賞作が無事刊行されたものの、売れなかったらと思うと落ち着かないんですよね。『次の玉あります!』と出せた方が気まずくない。なりゆき任せな部分もあるくせに、妙なところだけ計画的なんです(笑い)」
【プロフィール】
新川帆立(しんかわ・ほたて)/1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、民間企業に所属する弁護士として働きながら小説を執筆。『元彼の遺言状』(応募時タイトル「三つ前の彼」)で第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー。最高位戦日本プロ麻雀協会のプロ雀士として公式戦に出場した経験も。「テストは得意で麻雀のプロテストは一発合格でした。でも、実戦はあまり強くありません……」。166cm、AB型。
構成/三浦天紗子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年1月29日号