次々に現れる、森川一族とその関係者。彼らと栄治との関係性が見えてくるにつれ、動機になりそうな過去も浮かび上がってくる。さらに、畳みかけるような終盤のどんでん返し。新人離れした筆さばきで読ませるが、それは『このミス』大賞攻略の賜物らしい。
「去年も応募したのですが、箸にも棒にもかからなかったのがショックで。研究のために歴代の選評を片っ端から読みました。それで傾向と対策を練って重要な五要素を見つけたんです。
第一にキャラ立ちしている主人公、第二にストーリーの華やかさ、第三に魅力的で牽引力のある謎、第四に設定や扱う素材の新しさ。ここまでクリアできていると、優秀賞や『隠し玉』と言われるあたりに引っかかり、第五の要素として根底に現代的なテーマを入れることまでできたら、大賞の可能性も出てきます」
頭のキレのよさなど、新川さん自身が麗子と重なる部分は多い。
「年齢や弁護士であるとか、属性はかぶるんですが、性格はまるで違います。私はネアカというか楽観的な方だから、イヤな人間のじくじくしたところを書くのがどうも苦手なんです。
イヤミス系がうまい女性作家さんを見習って私も書いてみたことがあるんですが、“女の敵は女”のようなどろどろした気持ちが詰め込めず全然怖くならなくて……。もともとミステリーで女性が添え物的に扱われるのに不満があったので、自分が書くのであれば、女性読者が憧れるような、自立した女性が成長していく物語にしようと思いました」
物語にどう緩急をつけるかが課題
小さい頃から「ハリー・ポッター」シリーズを皮切りに、『ナルニア国物語』などファンタジーを愛読。
「でもミステリーも結構読んでいたんです。『シャーロック・ホームズ』シリーズやアガサ・クリスティーの作品は読み尽くしました。そういえば受賞作は、『赤毛同盟』を少し意識したかもしれません。
表では派手な何かをしているけれど、狙いは別にあるという。本作では、緻密なプロットに基づいた筋肉質なストーリーで投稿してしまったので、受賞後に編集者さんとも話し合い、もう少し贅肉があってもいいねと、ひと息つけるような部分を加筆しました。物語にどう緩急をつけるかは、今後の自分の課題でもありますね」