ミステリアスさが魅力のアヴちゃん
もちろん、素顔を明かさずにコラボレーションすること自体は今やそこまで珍しいことではない。前述のくじらが活動しているボカロP(音声合成ソフトVOCALOIDを使用して音楽活動を行う人)には、素顔を明かさずにインターネットを通じて“歌い手”と呼ばれるシンガーと組んで活動しているミュージシャンが数多くいる。
匿名での音楽活動も今に始まったことではなく、例えばアート・ロック・バンドのザ・レジデンツは謎めいた存在として1970年代から活動を続けている(ただし、中心人物のハーディー・フォックスが2018年に逝去することで図らずもメンバーの素性が公になってしまった)。
だがザ・レジデンツがその実験的な音楽性とも相まって、匿名であることや謎に包まれていること自体が大きな特徴となっていたのに対し、yamaをはじめとした近年の“素性不明のミュージシャン”たちは、匿名であるという演出を売りにしているというよりも、単に素顔や素性を発信していないだけにも見える。
素顔や素性を隠す理由は様々だ。J-POPに限定すると、大ヒットを飛ばした匿名ミュージシャンといえばやはり4人組ボーカル・グループのGReeeeNが有名だろう。2008年にリリースした「キセキ」が“日本で最も売れたダウンロード・シングル”としてギネス記録に認定されたこともある人気グループだが、彼らの素顔は公表されていない。
ただし、GReeeeNが匿名で活動しているのは、メンバーが歯科医師としても活動しているから、という現実的な理由があった。それに対して近年インターネットを通じて匿名で活動しているミュージシャンたちは、そうした現実的な問題を避けるためというよりも、音楽制作に注力するために情報を公開することなく活動を行なっているようだ。
Unknown Kun、コレサワが語る「理由」
2018年から活動を始め、代表曲「Keep Tryin’」のYouTubeにおける再生回数が100万回を超えるヒットとなった匿名ミュージシャンのUnknown Kun(アンノウンクン。「o」はウムラウト付き)は、素性を明かさない理由について「徹底的に作品重視でありたい」と述べる。