書店員の新井見枝香さん(40)は数々の著書を持ち、ラジオやテレビにも出演するカリスマ店員だ。一方で1年前にストリップデビューし、都内劇場を中心に巡業する新人ストリッパーの顔も持つ。
「直木賞作家の桜木紫乃さんに誘われて初めて観たストリップが、桜木さんの作品『裸の華』の主人公のモデルになった相田樹音さんの舞台でした。“これはすごい”と圧倒され、わけもわからず涙が溢れて一気にこの世界に魅了されたんです。その後、一人で鑑賞するうちに樹音さんから『見枝香ちゃん、踊り子になったら?』と言われた時は直感的に“やりたい!”って思いました」
男性たちの前で衣装を脱ぎ捨てることへの抵抗も一切なかったという。
「羞恥心はないです。彼氏もいないし、親への後ろめたさもない。そんなことより、劇場が年々減る状況を黙って見ていられなかった」
中高から音楽大学の附属校に通っていた新井さんは、「体は生まれつき柔軟だったし、舞台慣れしてるから度胸が座ってるのかも」と語る。音大生時代はホルンを専攻していた。
「ホルンのコンクールでは楽譜にある音をはずせないから、ストリップの舞台の1万倍緊張しました。一方で踊りに不正解はない。それが楽しいです」
戦後最盛期には全国300軒あった劇場も今や100軒にも満たない。この状況に胸が締めつけられると語る。
「踊りが好きで、生活を切り詰めながら舞台に立つ20代の踊り子さんがいて、その子の登壇を楽しみに始発で片道3時間かけて来場する定年退職後のお客様がいて……ささやかで幸せなこの空間がなくなってほしくないんです。劇場に陽の光を当てたいわけじゃない。ただ、ひっそりと存在し続けてほしいだけ。私が舞台に上がることで、ひとりでもストリップのファンが増えてくれたらうれしいですね」